131ストライク 鳴り響く轟音
打順、守備位置、そして、基本的な作戦を伝えたところで、改めてSゾーンの試合開始の合図が聞こえてきた。
最初に決めたとおり、俺たちのチームが先攻、ベータたちのチームが後攻で試合がスタートする。
まずは後攻であるベータたちのチームが、それぞれの守備位置に散開した。投手は予想とおり隻眼のベータで、続いてショートにルディ、セカンドにボムが立ち、最後に長身のスールがセンター付近で足を止める。
ベスボルは野球と違い、相手の守備位置や打順わ、事前に知る事はできない。だから、相手のチームを事前に調べて予想を立て、自分たちのオーダーなどを決めるのが定石であるが、神眼を使える俺にはあまり関係のない話だった。
想像していた通りの配置に俺は小さく頷く。
「想定内の守備位置だな。しかし、あのボムって男、本当にセカンドを守るのか。」
ボムは小太りで、その見た目はバランスボールの様な形( なり )をしているので、本当に内野手ができるのかと疑問だった。だが、ここは異世界で俺が元々いた地球の常識は通用しないと考えるべきだろう。
そんな甘い考えを改め直し、打席へと顔を向けた。
初めに打席に立つのは予定とおりミアだ。
少し緊張した様子で何度か素振りを行うミアにベンチから声をかける。
「ミア!焦らずにボールをよく見るんだ!まずは当てていこう!」
その言葉にこくりと頷くと、ミアはバットのグリップを握り締め直して打席へと立った。
Sゾーンがプレイボールの合図を行うと、マウンドに立っているベータがロジンを地面へと叩きつけた。
「最初は猫ちゃんか。1イニングしかないし、出し惜しみねぇぜ。」
そう告げたベータは全身に赤いオーラを纏った。
相手にはバレないように常時発動している神眼を通して、彼が火属性の魔力を練り込む様子が窺える。予定通り、ベータが投げるのはボールに火を纏わせたド直球スキルだろう。
だが、彼のスキルはそれだけではないらしい。リリース時に指先で小さな爆発を起こし、ボールに加速度を与える事で威力もスピードも格段にアップさせるつもりの様だ。彼の魔力操作を分析してみると指先の魔力が濃くなっており、それがすぐにわかった。
「でも、今のミアにボールのスピードは関係ないんだよな。」
「その通りだね!魔属性をある程度使いこなせる様になったんだから、今のミアちゃんはすごいよ!」
オーウェンも自慢げに鼻息を荒くしている。
こいつの言うとおり、ミアは魔力共生をなんとか習得し、魔力を使うことができる様になっている。そして、獣人族という種族として元々備わっている火属性と土属性に加えて、魔属性を手に入れたミアはスキルの範囲が大幅に拡がったのだ。
「とりあえず、身体強化のスキルの向上率がエグいよな。最後は俺が撃った矢を素手で受け止めちゃったし……動体視力は俺以上なんじゃないかな。」
「脚力もヤバいよ。200mを3秒って……僕よりも速い……」
悔しそうだが、嬉しそうに苦笑いするオーウェン。
彼はミアが好きだから、その成長は嬉しいらしいが強くなる事はあまり望んでいないから、今はとても複雑な気持ちらしい。
でも、俺にはオーウェンの言いたい気持ちはよくわかった。俺から見ても、魔属性と獣人族の相性はかなり良い……いや、良過ぎるほどだと感じている。
そもそも獣人族の身体能力は、全種族においてもズバ抜けて高い。マスターズで活躍する獣人族の選手のプレーを見ていたから、俺でもそれは知っている。
だが、それは火と土の属性を使っている場合の事であって、ミアの場合はそこに魔属性が加わっているのだ。
簡単に見積もっても、瞬発的な力は熟練の戦士に匹敵するのではないだろうか。まだまだ発展途上である為、スキルを持続的に使いこなす事はできないが、それでも今はお釣りがくる……俺はそう思っている。
ミアの体に何が起きているのかはわからないが、これは属性同士の相性ではなく、おそらくは魔属性と獣人族の相性……古代レベルの細胞の記憶の話だとスーザンも推測していたくらいだし。
「ソフィア。そろそろベータって奴が投げるよ。」
「……あ……あぁ……」
考え込んでいた俺はオーウェンにそう言われてグラウンドに目を向けた。
マウンドではベータがワインドアップの姿勢をとっており、彼が見据えるその先ではミアが真剣な表情のまま、バットを構えている。
「とりあえず……1球目だ。ミア。」
ミアを見据えたまま、俺はそう呟いた。
ミアには1球目から積極的に狙っていく様に指示している。どんな投手でも、試合開始後の初級中の初級は甘く入ってしまいがちだからだ。
それにベータのやつは口では出し惜しみはしないとかカッコつけてはいたが、まだ俺たちの事を甘く見ているはずだ。だからこそ、ミアには打席に入る前の素振りは軽く流す程度で振る様に念を押したし、それを見たベータたちは必ずミアを舐めてかかるはずだ。
(それに加えて、この世界では配球という概念が薄い。スキルをぶっ放し合う事で競い合うのが基本だから、ベータのやつもど真ん中に投げてくるはず。)
なら、今のミアに打てない道理はない。
「くらえ!俺の必殺フレイムショットを!!」
ワインドアップポジションから左足を腰の位置まで上げたベータは、そのまま左足を大きくミアの方へと踏み出し、全身を捻る様にしながらボールを放った。
リリースの瞬間、爆発音が響いて真っ赤に燃えたボールが放たれる。その射出速度は目にも留まらぬ速さと言ってもいい。
だが、ベータの顔に浮かんでいた笑みは、すぐに消える事となる。
乾いた打撃音が鳴り響くと同時に、打球はレフト線を走り抜け、轟音を響かせながらフェンスへと突き刺さった。
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