130ストライク 見えるもの、見えないもの

「おま……神眼だって……?なんだよ、それ!」



 俺のカミングアウトを聞いたオーウェンは驚愕の色を浮かべており、「そんなの卑怯だ!」とか「ずるいぞ!」と言って喚き出したがうるさいので放っておく。

 その反面、ミアはというと驚きはしているがオーウェンほどではなく、意外と冷静な表情を浮かべていた。



「ミアはあんま驚かないんだね。」



 そう尋ねると、彼女は小さく苦笑いを浮かべてこう告げる。



「もともと、ソフィアってどこか特別だなって思ってたんだにゃ。選手登録の時、あのおじさんの投げたボールを魔力もスキルも使わずに打ち返したりしてたし……」



 ミアの言葉を聞いて、確かにそんな事もあったなと記憶を掘り起こしてみる。確か、受付のマリーさんの立会いの下、ボールの姿を消すスキルを使っていたやつと対戦した時か。だが、あの時はバレない様に使っていたつもりだったんだけどな。

 俺の後ろで「魔力無しで打ち返すとかチートじゃん!」とうるさいオーウェンには目もくれず、俺はミアの話に耳を傾ける。

 


「最初はその程度に感じるくらいで、私もよくわかっていなかったんだにゃ。でも、魔力障害を治してもらった時に確信したにゃ。ソフィアはたぶん相手の魔力が把握できるんだって。」


「そっか……隠していてごめんな。話すタイミングは相応と時がいいと思ってたんだ。」


「いいにゃ。魔力やスキルは本来隠しておくものにゃよ。ベスボルでは相手に知られれば対策も取られやすくなるし、冒険者の世界ではそれが命取りになる事もあるって聞いた事があるにゃ。私は全然気にしてにゃいし、むしろ話してくれた事が嬉しいにゃ。」



 その言葉を聞いて、俺は深く感動してしまった。やっぱり、持つべきものは信頼できる仲間なんだと。

 相変わらず、後ろでギャーギャーとうるさいオーウェンには目もくれず、俺はミアをじっと見据えて感謝を述べた。



「ミア、ありがとう。君と友達になれて本当によかった。」


「う……うん……だにゃ……」



 なぜかミアが顔を赤くして下を向く。

 御礼を言われたことがそんなに嬉しかったのだろうか。でも、それで十分だった俺は満足したので、改めて2人に相手の情報について説明を始めた。



「まず、あのリーダー格のベータって男。あいつの魔力は火属性だな。パワー重視で打撃特化のスキルが多い。具体的には筋力を上げたりする身体強化系のスキルだな。」



 ミアはうんうんと頷ているが、オーウェンは偉そうに鼻を鳴らす。



「次があの小柄な男。スールとか言ったかな?あいつは風属性と雷属性を持ってるな。2属性持ちだからスキルの数も多くて全部はわからなかったんだけど……」



 俺は説明を続けて、小柄なスール、小太りのボムの魔力とスキルについてわかっている事を2人へと伝えた。

 そして、最後にルディという男について。



「最後に、あの特徴が特にないルディってやつなんだけど……」


「あいつか。あいつは要注意だな。」


「え?オーウェン、なんか知ってるのか?」



 もしかすると、こいつも俺と同じ様にやつの不気味さに気づいたのだろうか。

 オーウェンの言葉に驚いて尋ねると、彼はルディを見ながらこう告げる。



「なかなかのイケメンじゃないか。僕といい勝負だが……まぁ、この僕には勝てないがな。」



 俺は言葉を失った。

 期待はずれもいいところだ。こいつはやっぱりバカなんだろうか。それとも、俺たちの緊張をほぐそうとわざとやってるとか……

 ミアを見ると彼女も唖然としている様だ。そんなミアと目を見合わせていると、オーウェンはさらに自分の世界へと入り込んでいく。



「まぁ、よく考えたらあれくらいの顔はどこにでもいるよな。ちゃんと見てみたらそれほどイケメンじゃないかもね。僕の方が絶対にかっこいいし、イケてるよな。」


「オーウェン……」


「ベスボルだって大したことないさ。あいつはよく言うモブってやつだな。有象無象……烏合の衆の1人だろ。」


「オーウェン!!」


「え?」


「お前、あいつの魔力とかスキルがわかってる訳じゃないのか?」


「は?そんなのわかる訳ないだろ。お前じゃあるまいし!そんなチートみたいな力、持ってるわけないじゃん。」



 その答えに俺は大きくため息をついた。

 ペラペラと本当によくしゃべるやつだ。でも、今こいつの話に付き合っている時間はない。みんなには打順とか守備位置とか、他にも伝えないといけない事はあるんだから。



「わかったから少し黙れ。今は大事な話してるんだから。」


「ご……ごめん。」



 俺が睨むと、オーウェンもさすがに萎縮する様に静かになった。

 そんな俺たちの様子に苦笑いしているミアを見て、再び小さくため息をつき、仕切り直して残りの説明を続ける。



「ルディの魔力は見えなかったんだよ。なぜかはわからないが、あいつの事はまったく何にもわからなかったんだ。」


「ソフィアでもわからないにゃんて……いったいあの人は何者なんだにゃ。」


「わからない。でも、1つだけはっきり言えるのは、1番気をつけなきゃならないのは他の3人じゃなくてあのルディって男だって事だ。」



 俺が真剣な顔でルディを見据えると、ミアはもちろんだが、さっきまで偉そうにしていたオーウェンもごくりと唾を飲み込んで喉を鳴らすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る