129ストライク カミングアウト

 ベータが仲間を引き連れて三塁側から歩き出した事を確認して、俺もミアとオーウェンに視線を送る。2人とも少し緊張している様で、ごくりと唾を飲み込むと俺の後に続いた。

 ホームベースを挟む形で互いに並ぶと、Sゾーンから試合開始のブザーが鳴る。その合図に合わせて互いに頭を下げた後は、Sゾーンから現れる先攻後攻を決めるくじを引いて攻守を決める。

 この手の仕組みは各都市が管理しているグラウンドによく見られる仕様である。公式戦などでは高性能のSゾーンが準備されていて、日々メンテナンス管理されているが、一般的なグラウンドでベスボルを行う際はこの簡易的なSゾーンが設置されており、それを使って試合をする事が多い。

 もちろん、アネモスの街にあったグラウンドでもこれが設置されており、試合をする時は全てをジャッジしてくれていたので俺も存在だけは知っていた。

 だが、簡易的とは言っても全てのジャッジを自動で担う魔道具で、いわばAI審判みたいなものであり、その値段は一般市民が手を出せるほど安くはない。



「よし、俺たちが後攻だな。」



 ベータがそうこぼしたので自分が手に持っている棒状の魔道具に目を向けると、真っ白く細い棒の先端が青く光っているのが確認できた。

 


「青……先攻か。まぁ別にどっちでもいいんだけどな。」



 ちょっと負け惜しみっぽくはなってしまったが、そう呟いた俺はミアとオーウェンと共に一度ベンチへと戻り、頭の中で決めていた打順と試合運びについて説明を始めた。



「まず、最初はミアね。」


「んにゃ!?」



 まさか1番を任されるとは思っていなかった様で、俺の言葉を聞いたミアは飛び跳ねる様に驚いた。



「な……なんでにゃ!?1番はソフィアじゃ……」


「俺は3番かな。ミアには1番らしく塁に出る事を目的に頑張ってもらうよ。んで、2番はオーウェン。もちろん、ヒットは必須な。もしミアが塁に出てたら最低でも進塁させろ。ミアをアウトにはするな。できるだろ?」


「ちょ……!僕に対してだけなんか辛辣過ぎないか?!」


「ごちゃごちゃうるさいなぁ。今まで良いところないんだから、この辺でちゃんと実力を見せてくれよな。で、ミアが2塁まで行けたら俺が必ず長打を打つ。そうすれば、ミアの足があれば確実に1点は取れるって寸法だ。」



 説明の横でごちゃごちゃとわめくオーウェンは放っておくとして、次に相手を分析した結果を伝えようとしたところでミアが疑問を呈した。



「けっこう細かい作戦を立てるにゃね。イニング少ないんだし、みんな積極的に打っていった方がいいんじゃにゃいの?」


「う〜ん、確かにそう思うよね。だけど、作戦ってのはどんな時でも大事なんだよ。特に集団行動においてはね。」



 ミアもオーウェンもまだピンと来てない様なので、簡単に説明を加える。

 


「よく考えてみて。例えば獲物を捕まえようとした時、それぞれががむしゃらに動くだけの場合とやるべき事を理解して動く場合。どっちがいい結果を出せると思う?」


「そりゃあ後者に決まっている。」


「なるほどだにゃ。」



 オーウェンはどうだか知らないが、ミアは今の話を関連付けて理解した様だ。頷くミアに満足した俺は説明を締めくくる。



「それぞれに役割を与える事でやるべき事が明確になる。そうすれば、個々の連携が高まっていい結果に繋がるんだ。だから、このチームは試合前に綿密な作戦を立てていくから、今後もそのつもりで。」



 力強く頷くミアと、それに合わせてニヤニヤと笑っているオーウェンを見ると、なんとなく心が躍った。

 こうやって仲間を頼もしく感じたのいつ以来だろうか。高校を卒業してプロに入ってから、仲間の大切さを忘れていたんだと改めて実感した。プロチームをクビになってから、一度も連絡を取らなかった青春を共にした仲間たち。一度でいいから彼らに声をかけていたなら……俺の鈴木二郎としての人生も……


 そこまで考えたところで、俺は頭を横に何度も振った。

 今さら後悔はしないと決めたのだった。今はソフィアの為にこの世界で成り上がる。ベスボルを極めて、ベスボル界のトップに立つ。

 そして、ミアとオーウェンが今大切にするべき仲間たちであって、鈴木二郎はもう死んだのだ。


 小さく息を吐いて気持ちを整える。その様子をミアとオーウェンも静かに見守ってくれている。



「よし!それじゃ、今から重要な事を伝えるぞ。これはできる限り覚えておいてくれ。」


「重要な事……?それは作戦よりもかにゃ?」


「あぁ、今から話すのはあっちの選手の魔力とスキルについて。相手がどんなスキルを使えるのか。ある程度予測できればかなり優位に立てる。」



 その言葉を聞いた2人は驚いた顔を浮かべていた。

 それもそのはずだろう。2人には俺が相手の魔力を認識できる事は伝えていなかった訳だし。

 だが、仲間である以上、そして、これからたくさんの試合を共にする以上、2人には俺の力の事を伝えておかなければならない。オーウェンはともかくとして、ミアは信頼しているからちゃんと伝えておきたいし。


 口を開けて驚く2人に、俺は自分の左眼の力について説明した。

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