128ストライク バッチバチだぜ
案内されたのはケルモウの屋敷の敷地内にある広いスペースだった。
それは街にあるグラウンドよりは狭いが、体を動かすには十分な広さで、テニスコート5枚分くらいと推測する。
そのまま、ケルモウのあとに続いて中へ入ると数人ほどの男がこちらへ気づいて視線を向けてきた。皆、屈強な体躯の持ち主で体のところどころに傷を持っている事からも、彼らが視線を潜ってきた猛者だと分かった。
「こ……怖いにゃ……」
ミアは怖がっているが、オーウェンはすでに切り替えた様で済ました顔をしている。そういう部分はさすがだなと思いつつ、ケルモウへ今からの事について尋ねてみた。
「もしかしてですけど……あの人たちと戦えとか言いませんよね?」
「フフフ……さすがに私もそこまでバカではありませんよ。噂が出回ってますし、隠す必要もありませんので申し上げますが、私は今、ベスボル業界への参入を検討しておりましてな。」
自慢げに、そして何より楽しそうに告げるケルモウ。
そんな彼を見て、何となくだが目の前の猛者たちが何でここにいるのかを理解する。
「あの人たちって、もしかしてベスボル選手ですか?」
「ご名答。さすがはソフィア殿ですな。彼らは私の部下であり、今回のベスボル事業を担ってもらおうと考えている者たちです。」
そう言いながらケルモウが彼らを呼び集める。
全部で4名の猛者たちは、無駄のない機敏な動きで彼の前に横並びで整列する。
一番左は隻眼で長身の男。右目に眼帯をつけている。
その隣にいるのは少し小柄な男。ミアと同じくらいの背丈だが体格はがっしりとしている。
3番目は小太り……というよりも相撲取りの様なイメージか。体についているのは脂肪ではなく筋肉の塊だとすぐにわかった。
そして、最後に普通の男。背丈も俺くらいで筋肉質でもなく、特別な何かを持っている様には見えない。だが、その普通さが逆に不気味にも思えた。
それに彼だけが俺と視線が合うとニコリと笑いかけてきた。まるで兵隊の様に洗練されたケルモウの部下の中では、ちょっと異質な感じを受ける。
「隻眼がベータ。その隣の小柄な男はスール。小太りがボムで、最後がルディです。皆、私の新事業の為に頑張ってくれています。ほれ、こちらがソフィア=イクシードさんだ。」
ケルモウが俺たちの事を紹介し、挨拶をする様に指示すると、彼らは寸分の狂いない動きで俺たちに敬礼を向ける。
「ソフィア=イクシード殿!この度は我が主人の命をお救いいただき、本当ありがとうございます。」
ベータと呼ばれた隻眼の男が、見た目によらず丁寧に挨拶をしてきた事に少し驚いていると、彼はさらに笑みを浮かべて俺に手を差し出してきた。
ただ、その目には笑みなんて浮かんでいない。敵意とまではいかないが、完全にこちらに不満を持っている目をしている。おそらくそれは、俺たちに自分たちの担当プロジェクトを取られるかもしれないという危惧からきているのではないかと容易に想像できた。
「いえいえ、俺も一応冒険者の端くれですから。人助けをしたまでです。」
「ご謙遜を。ハハハハ……」
差し出された手を取って微笑み返し、握る力を込めてみる。すると、彼も負けじと握り返してきた。
表面では笑顔を浮かべ合いつつも、互いに握り合う手にこっそり力を込め合う俺たちに対して、ケルモウが楽しげに手を叩いた。
「自己紹介はその辺でいいでしょう。ソフィアさん、彼らは我がケルモウグループきってのベスボルプレイヤーたちです。先ほども申し上げたとおり、ベスボルに関する新事業を任せるつもりで集まってもらった訳でして。今は訓練を行なってもらっておるんですよ。で……」
「俺たちがこの人たちと勝負する。そういうことだな。」
ケルモウの言葉を遮って俺が笑みを深めると、彼自身は満足そうに笑い返してきた。もちろん、主人の言葉を遮った俺に対してベータたちはさらに不満を向けている。
でも、これでいい。彼らとは今からベスボルでやり合うんだから、これくらいバチバチしとかないとつまんないしな。
「なら、さっさとやろうぜ。こっちもひっさびさだからウズウズが止まんないんだよな。ミア、オーウェン、それで大丈夫だよな?」
そう言って振り返ると、ミアはちょっと不安そうな表情を浮かべながらも頷き、オーウェンは面倒くさそうにため息をつきながら「やる以外の選択肢なんかないくせに……」とぼやいている。
二人の合意を得た事を確認した俺が振り返ってケルモウたちへ視線を向けると、彼らもそれに対して笑みをこぼした。
「それでは、ソフィア殿のチームと我がチームでひと勝負といきましょう!ルールは簡単に1イニングずつ勝負する形で、勝った方に今回の事業を任せる事とします!!」
ケルモウのその言葉を聞いたベータたちはやる気満々な顔でこちらを睨んでいる。それはまるで、檻に入れられてお預けを食らっていた獣のような顔だ。
ミアもオーウェンもそれには少し引き気味だが、俺自身は久々に感じる高揚感に胸を躍らせていた。
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