127ストライク プレゼンツ ソフィア

「改めまして!ようこそ我が商館へ!」



 ど広い応接室に案内された俺たちは、改めてケルモウの笑顔に迎えられた。

 彼の後ろと応接室のドアの前には、黒づくめの男たちが2人ずつ立っていて、こちらをまるで監視する様に……いや、これは監視されているのだろう。そんな視線を俺たちに向けている。


 まぁ、確かに彼ケルモウは帝国の物流を牛耳っている、謂わば物流界のドンみたいなものだ。そして、成り上がる為にいろんな犠牲も厭わずにこれまでやってきたのだろう。

 そう考えれば、俺たちの事も警戒して護衛を付けるのも頷けた。



「まずは長旅でお疲れでしょう。ささ、こちらでその疲れを癒されてください。話はそれからという事で……」



 ケルモウが柔らかな笑顔でテーブルの上に並ぶ茶菓子を勧めてきたが、ミアとオーウェンはどこか緊張した面持ちだ。おそらくはこんな豪華な部屋に案内されて、どう振る舞っていいかわからずに緊張しているのだろう。それに護衛の殺気も関係していると思う。



「それじゃ、遠慮なく……」



 とりあえず、俺は目の前のクッキーのような焼き菓子を手に取って頬張った。口の中に軽やかな甘さが広がり、歯応えのある食感が不思議にも気分を高揚させる。



「これ、めちゃくちゃ美味いじゃん!」



 ついついもう1つ手に取って口にする俺を、どこか恨めしそうな顔で眺めるミアとオーウェンを横目に、俺はケルモウへと提案する。



「ところでケルモウさん。その護衛の人たちを下げてもらえない?うちのチームメイトが怖がってるんだけど……」


「おっと!これは失礼しました。いつも商談では必ず同行させているのでついつい……皆、この人は信用できるから。下がってくれ。」



 俺の提案に対し、ケルモウが申し訳なさそうにして手を叩くと、黒づくめの男たちは相談するかの様に顔を見合わせていたが、ケルモウがもう一度告げると彼らは少し不満そうな態度を見せながらも、頭を下げて部屋を出ていった。



「配慮に欠けましたな。申し訳ない。なにせ、Aランクの魔物を単騎で討伐されたと聞いては、彼らも警戒せずにはいられなかったのかと。」



 ケルモウは深々と頭を下げてそう告げたので、俺は問題ない事を告げてクッキーをミアへ勧めた。


 察するに、彼らはケルモウ氏が雇った冒険者か傭兵の類、それもけっこう高ランクの強い部類の人たちだ。俺も含めてだが、そういう職業を生業にする人間というのは、相手の力量を測ることがクセになっているので、さっきの視線も俺が安全な人物かどうか警戒していたのだろう。



「気にされないでください。主人を守るのがあの人たちの役目でしょう?」


「ハハハ!確かにそうですな!彼らはそれで食っていますから。」



 紅茶を口にしながら笑い返すと、ケルモウは頃合いだと考えたのだろう。咳払いを1つして真面目な顔をこちらに向けた。



「改めて、ソフィア=イクシード殿。この度は我らの窮地をお救いいただき、誠に感謝申し上げます。」



 かしこまって深々と頭を下げられては、こちらも返さない訳にはいかない。「無事で何よりです。」と伝えつつ、俺も頭を下げ返し、その後は互いに頭を上げて笑顔を向け合った。



「ところで、ソフィア殿。今回は命を助けていただいた御礼として何か考えたいのですが、ご希望はありますかな?」



 見た目では平静を装っているものの、その言葉を待ってましたとばかりに俺は内心でガッツポーズをする。



「ありがとうございます。ですが、それを伝える前に、まず見ていただきたい事があるんですが……」


「見てもらいたい……?私にですか?いったいなんでしょう。」



 俺の提案の内容について、ケルモウもまだ想像はできてはいないようだ。あごに手を添えてながら、考える素振りを見せている様子からもそれが窺える。


 この場はあくまでも交渉の場であって、単に報酬を貰いに来たわけではない。たとえ命を助けた御礼に貰ったお金でチーム登録できたとしても、資金難のチームとしての先は短いだろう。

 今日の目的は、ケルモウへ俺たちに出資するメリットを提示して彼に認めさせる事。要はスポンサーになってもらう事だ。彼は商売人であり、噂ではベスボルへの参入も考えてると聞いた。それが事実だとすれば、俺たちが可能性を示せば彼は食いつくはず……少しでも利益を見込めるものには金を出すはずだから。

 となれば、その為にこちらが切るカードはこれしかない。

 隣でガチガチに固まっているミアとオーウェンには悪いけど、今は構っている暇はない。俺は興奮する気持ちを落ち着かせる様に小さく、そして深い息をついた。



「ケルモウさん。俺たちのベスボルの実力を見てもらえないですか?今日は御礼を貰いにきた訳じゃないんです。俺たちの可能性を示しにきました。」



 その言葉を聞いたケルモウは驚いた表情を浮かべたが、何やら少し考えた後、すぐに真面目な顔に戻って俺たちにこう告げた。



「わかりました。では私について来てください。」



 立ち上がった彼に続いて応接室を出る。

 が、すぐにミアたちがついて来ていない事に気づく。ケルモウに断りを入れて部屋へと戻ってみると、いまだに固まっている二人を見て、ちょっと心配になる俺であった。

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