126ストライク ケルモウんちへ行こう


「うわぁ!すっごいにゃ〜!」



 ミアは帝都ヘラクの街並みを目にして、瞳を輝かせて驚いた。



「そっか。ミアは初めてだっけ。」



 俺がそう問いかけると、彼女はとても嬉しそうに頷く。



「うん!今まで村の外には出た事なかったにゃ。アネモスも綺麗だったけど、ここは綺麗というより煌びやかな感じだにゃ。」


「そうだな。アネモスはどっちかと言うと自然を中心に発展させてるからな。それに比べて、ここ帝都は完全に大都市って感じだからその印象もわかるよ。」



 歩きながらそう答えると、ミアは再び嬉しそうに笑みをこぼして辺りをキョロキョロと見回している。

 そんな様子にほっこりしつつ、今回の目的であるケルモウ氏の邸宅へと向かっていると、数歩ほど後ろをついてくるオーウェンが不満をこぼした。



「ねぇ、いったいいつになったらそのケルモウってやつの家に着くんだよ。」


「あ?まだヘラクに着いてそんなに経ってねぇぞ。」


「でも、アネモスの街からもう1週間だよ!長すぎる!」


「つべこべ言わずに黙って歩け。」


「う……てか、ソフィアって僕の扱いがやっぱりひどいよね!」


「いーや、そんな事ないだろ!これは一般的な対応だな。そう、普通だ、普通!」


「絶対違うと思う!このチームでの人権を主張するぞ、僕は!」


「何が人権だ!犯罪者にそんなものはない!家畜扱いされないだけでも幸せに思え!」


「家畜って……僕はだんだんソフィアが悪魔に見えてきたよ!チーム組むんだから、待遇の改善を要求する!」


「うるせぇー!」



 そうギャアギャアと2人で言い合いをしていると、それに気づいたミアが近寄ってきて俺たちを諭す様に優しい声と笑顔を向けてきた。



「2人とも、ケンカはだめにゃ!ソフィアも……オーウェンの言うとおり、3人でチームにゃんだから仲良くしないと。」


「でもさぁ〜ミア。このオーウェンだぜ?」


「でも、仲間にするって決めたにゃ。なら、オーウェンもちゃんとした仲間なんだにゃ。ね!ソフィア!」



 ミアにそう言われてしまっては、それ以上オーウェンをけなす事はできない。

 小さくため息をつき、仕方なくミアの言葉に頷いて再び歩き始める俺。その横ではミアが自分を守ってくれた事に喜ぶオーウェンがいる。それがまた気に食わなかったが、これ以上オーウェンと絡むのも面倒くさいので目的地へと足を急がせた。



 ケルモウ氏の邸宅はヘラクの中心にあると聞いており、受付嬢のエマから受け取った手紙には「来ればわかる」と言った意味の内容が書かれていた。それに加えて大まかな地図が同封されていたので、今はその地図をもとにケルモウ邸宅を目指している。


 そうして、ヘラクの街を3人で歩いていると目の前に大きな建造物が見えてきた。もちろん、俺はそれがなんだか知っている。数年前に俺はがユリアと試合を行った帝国立競技場だ。

 その荘厳な建物を見ているとあの時の思い出が蘇ってきて、なんだか胸の中に感慨深さと悔しさが同居してなんとも言い難い気分になってしまう。



「ソフィア?どうしたにゃ?」


「いや……なんでもないよ。そろそろケルモウさんの家が見えるはずなんだけどと思ってさ。」



 顔に出したつもりはなかったんだが、ミアが俺の小さな変化に気づいて声をかけてくれた様だ。だが、ここで心配をかけるわけにもいかない。誤魔化すように辺りを見回す素振りを見せると、ミアもそれに習って周りを確認し始めた。

 すると、ひときわ大きな建物が目に入る。それは確かに大きくてわかりやすい建物であったが、大きさよりも際立った部分の印象が強すぎて唖然とした。



「あれ……だよな……」

「お……おそらくは……」

「だ……にゃ……」



 3階建ての屋敷……

 というよりもそれは城に近い規模の建物だった。しかも、その最上部に大きく掲げられた「Mr.Kelmo」の看板がこちらに向かって微笑んでいるのだ。

 そもそもこんな大きな建物、前来た時はあったっけと首を傾げてしまうが、確かに手紙に書いてあった「来ればわかる」という言葉にも頷けた。誰がどう見ても、ここがケルモウ氏の拠点であると一目でわかるだろう。



「す……すげぇな……なんかいろいろと……」


「……」

「……」



 ミアはもちろんのこと、さすがのオーウェンもこれには言葉を失った様に口を開けたまま頷いており、そのまま3人でその場に立ち尽くしていると、今度はケルモウ邸宅の門が突然開き出してまた驚いてしまう。



「な……なんだ?門が勝手に開き始めたぞ。」



 いったい何が起きるのかと3人で見守っていると、開き切った門の中から今度は小太りの男と黒づくめの男2人が飛び出して、こちらに駆けてくる様子が窺えた。

 黒づくめの男たちは屈強な体格の持ち主であったが、小太りは言葉のまま小太りである。であるにも関わらず、その軽快な足取りにさらに驚かされていると、小太りの男は俺の目の前で立ち止まって息を整え、小太りのおじさんとは思えないほどの爽やかな笑顔を向けてきた。



「ソフィアさま!お待ちしておりました!!」


「あ……う……うん。ど……どうも。」


「長旅でお疲れでしょう?ささ、我が邸宅でその疲れをお癒しください!もちろん、そちらのお二人もですよ!」



 ものすんごい笑顔だな。おじさんなのに。小太りの……

 そんな事を口に出す暇もなく、俺たちはいつの間にか黒づくめの男たちに担がれ、そのままケルモウの邸宅へと拉致されたのだった。

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