エピローグ


「はい……キメラ自体は例の娘にやられた様です。」



 薄暗い森の中で真っ黒な外套をまとい、フードを深々と被ったまま誰かと連絡を取る女の声が小さく響く。そのフードの中では緑色の前髪が風に揺れている。



「はい……作戦は失敗です。はい……ですが、彼女はイクシード家の血筋ですからこうなる事も予想できたかと……。」



 通信相手はどうやら怒っている様だ。

 時折聞こえる怒鳴り声がそれを物語っているが、対する彼女の声に感情の色はまったくなく、ただ淡々と返していくだけだ。



「では、あの成金男はどうなさいますか?放っておいても問題はないと思われますが……消しますか?はい……今はギルドに連行されて身柄を拘束されておりますので、簡単には行かないかと……はい……はい……それにはイクシードと対峙する事になる可能性も……はい……」



 苛立ちながらも通信相手は情報を欲している様で、いろいろと確認しては悩むを繰り返しているが、女はそれについても特に面倒くさがる事はなく無表情で答えていく。



「かしこまりました。では、私も撤収いたします。ムースが残した痕跡は全て消しておりますので、足が付く事はないかと……」



 そこまで告げると、通信は唐突に切られた様だ。女は耳元に当てていた手をゆっくりと下した。

 だが、やはりというべきか、彼女は一方的に通信を切られた事についても何も感じてはいない様子だった。


 まるで機械仕掛けの人形の様に無機質な足並みで、その場からゆっくりと歩き出す彼女の周りを風が吹き抜ける。

 その拍子にフードが捲り上がり、中から現れたのは綺麗な緑色のショートヘアと特徴的な長い耳。


 彼女の名はメフィア。

 種族はエルフだが、プリベイル家に使えるメイドの一人であり、その本当の顔は裏の仕事をこなす暗殺者である。



「しかし、あれを単騎で倒すとは。やはりイクシードには警戒が必要か。」



 歩きながら小さく呟いた後、彼女は再びフードを被る。

 その口元には珍しく笑みが浮かんでいた。もちろん一瞬だけであったが、彼女が感情を表した事に変わりはない。


 ほとんど感情を表に出す事がない彼女にとって、それは自分でも予想していなかったのかもしれない。


 一瞬だけ立ち止まって自分の唇に軽く手を触れた後、彼女は再び歩き出してその場を後にした。

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