118ストライク 狩りの仕方
痛みと怒りで暴れ狂う魔物が再び大きく咆哮した。
それと同時に、奴の周りに無数の紫色の球体が姿を現し、それら全てが電気の様な放電を放ち始める。
(あれは……もしかして、さっきのスキルか?)
もしそうだとすれば、あれは広範囲攻撃スキル。
突然攻撃された事で、本能的に敵を遠ざけようとしたと考えればその可能性は高い。
危険を察知した俺は後方へ大きく跳躍して距離を取り、大きな木の幹の影に隠れて矢筒から矢を抜くと、素早くスキルを発動して弓を鳴らした。
大木に隠れている為、矢を放った方向は魔物がいる場所から外れているが、それに関しては問題はない。
風を切って走り抜ける矢は、まるで木々を避ける様に大きな弧を描いて目標に到達する。
「グギャァァァァ!!」
矢は魔物の臀部に命中した。
魔物は再び襲ってきた痛みに我慢しきれず、悲鳴の様な叫びを上げる。同時に、周りに浮かんでいた球体が消滅していく。
「よし!!成功っと!」
俺は内心でガッツポーズしながら、隠れていた大木から飛び出して魔物の元へと向かった。
魔力を使ったスキルは発動までに時間を要する事が多くて、俺はこれを"ロス"と呼んでいる。これは魔力操作の精度による要因が大きく、魔力操作の訓練次第ではこのロスを減らす事が可能だ。
もちろん、魔物の中にも魔力操作が得意な奴はいて、そいつらはロスなくスキルを発動してくるけど、そういう魔物は大抵が素早さに特化した小型の奴らだ。あいつみたいに図体がでかい奴は魔力操作が雑な事が多く、スキル発動までのロスが多い事をこれまでの狩りの中で学んできた。
そして、俺はそのロスを利用して、相手のスキルをキャンセルする技術を得ている。痛みへの耐性が高い魔物もいるので成功率は7割ほどだけど、成功するとかなり有利に戦う事ができる為、初手は必ずこれを使っている。
怯んだ魔物の下へ辿り着いた俺は、まず臀部に刺さった矢を思い切り引き抜いた。
その痛みに反応して、こちらへ向けた魔物の顔に炎を纏った双剣で一撃を見舞い、再び怯んだ隙を狙って奴の目に刺さっている矢を引き抜く。
「ありゃ……鏃が壊れた。」
引き抜いた矢は鏃が折れていて使いものにならないと判断し、折れたまま炎属性の魔力を流し込んで太い首へとぶっ刺してやった。
何度も襲い来る痛みに魔物は悲鳴を上げ、俺を振り払おうと盛大に暴れ出したので、それに巻き込まれぬ様に距離を取った俺は高い枝の上ですぐに弓を構える。
「新しい属性……魔属性だっけ?ちょっと試してみようかな。」
そう呟いて魔属性魔力を発動させる。
扱いが厄介な属性だけど、ヒルモネに教えてもらった魔力共生のおかげで難なく制御に成功。
まずは炎属性とのコラボレーションを試そうと考えた俺は、魔力操作で炎属性と魔属性の魔力を練り込んでみた。
魔力を練り込まれた矢が赤と紫のオーラを纏い、まるで黒い炎を燃やしている様に見える。
イメージした効果は"永続の炎"。
要は何をしても絶対消える事のない普通ならばあり得ない炎だ。もちろん、今降っている雨に消される事はないはずだ。
素早く狙いを定め、弦を鳴らして矢を放つ。
当たったのは魔物の背中辺りだったが、付与した黒い炎が大きく爆ぜて一気に魔物の体を飲み込んでいく。
苦しげな悲鳴が森中に響き渡った。
魔物は体のあちこちで燃える炎を消そうと必死でのたうち回るが、炎は一向に消えることはない。何度も何度も大きく叫ぶその様子から、このスキルの効果が絶大であると確かめる事ができた。
だが、誤算が1つだけあった。
「あれれ?やばっ!」
魔物がのたうち回る事で炎が飛び散り、黒い炎が周りの草木に燃え移ってしまったのである。
永続の炎とは言ったが、練った魔力を使い果たせば自ずと消える。だが、それを待っているとおそらくこの辺一体が焼け焦げてしまい、森に住む動物たちが住めなくなってしまうだろう。
俺としてはそんな事は許容できないので、すぐさま別の魔力を練って矢に付与し、それを空高く打ち上げた。
放たれた矢が空で小さく爆ぜると、蒼色の雫が辺りを包み込む様に降り注ぐ。その雫によって、黒い炎は全て消火されていった。
「あっぶね〜。魔属性、扱いにくさは他の属性に比べて段違いだな。」
俺は浮かんだ焦りを払う様に滴る雨を拭った。
一方、自身を苦しめていた炎が突然消えた事で、魔物自身は何が起きたのか理解できていない様だが、苦しみから解き放たれた今の彼の中には、相当な怒りの感情が込み上げている様だ。
顔を歪めながら再び大きく咆哮し、周りに紫色の球体を発動する。
「およよ?今度はロスが少ないじゃん。」
怒りのせいなのかはわからないが、神眼で確認していた奴の魔力操作の精度がさっきよりも上がっている。
スキルキャンセルを行う時間はないと判断した俺はすぐさま大きく距離を取り、周りの様子が把握しやすい背の高い木の上に身を潜めた。
それと同時に轟音が鳴り響き、辺り一面に紫電が走り抜ける。それらは木々を薙ぎ倒し、草花を燃やしながら地面を大きく抉っていき、数秒ほどで一面を荒地にしてしまった。
その様子を分析していた俺の視界に、あるものが映る。
(あれは……洞窟……あの人がケルモウか?)
幸い、魔物は俺の事を見失っており、次の攻撃に備える様に警戒を高めている。
接触するのは今のうちだと判断し、俺は気配を完全に絶ったまま洞窟へと足を向けた。
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