109ストライク 一難去っても…

「お世話になりましたにゃ。」



 ミアがそう頭を下げると、ヒルモネはいくつか抜けた歯を披露しながらニンマリと笑った。



「ええよええよ。むしろ、御礼はワシが言いたいくらいじゃ。魔力共生の関する貴重なサンプルが取れたんじゃしな。」



 このジジイは相変わらずいやらしい笑みを浮かべるなと思いつつも、ミアを救ってくれた事には心から感謝はしているからちゃんと御礼は伝えておこう。



「じいさん、助かったよ。これでやっとみんなでベスボルができる。」


「ベスボルか。そう言えばお主、そんなこと言っとったのぉ。ソフィアちん、もしかしてプロを目指すんか?」


「あぁ、もちろんだ。その為にオーウェンも仲間にしたんだからな。」



 俺の言葉にミアは嬉しそうに頷き、オーウェンは少し面倒臭そうな表情を浮かべている。



「なるほどなるほど。なら、チーム登録はもう済んだんか?」


「チーム登録?」


「あぁ、ベスボルでプロを目指すなら協会で選手登録とチーム登録せにゃならんじゃろ?」


 

 チーム登録だって?選手登録した時、受付のマリーさんはそんな事一言も言わなかったと思うけど……


 ヒルモネからの意外な問いかけに首を傾げ、自然とシルビアに目を向ける。すると、彼女は何かを察した様にニヤリと笑みを浮かべた。

 

 その顔を見た俺は内心でホッとする。

 笑うって事はすでに登録済み?やっぱりベスボルに関しては本当に仕事ができるもんな。シルビアって。


 それにしても、これからの事を考えると本当に心が躍る。思い返せば、ここまでの道のりは本当に長かった訳でやっとソフィアとの約束を守る為にベスボルでプロを目指す事ができる。

 そう思えば、俺の胸が高鳴るのは必然だった。


 だが……



「チーム登録はまだよ。」



 その言葉に一瞬耳を疑った。


 ……が、シルビアの事だからちゃんとした合理的な理由があるんだろうとすぐに気を取り直す。彼女は他はてんでダメだけど、ベスボルに関してだけは本当にちゃんとしてる事を俺は知っているからだ。そもそも、それを取ったらシルビアに良いところなど無くなってしまうし。

 だけど、その理由はやっぱり気になるところ。

 俺は不敵に笑っているシルビアに、珍しく敬意を込めて尋ねてみた。



「じゃあ、チームメイトもある程度揃った事だし、まずはチーム登録に行くって事だな!」



 チーム名は何がいいかな。

 ベスボルはずっと観てきたからカッコいいチーム名はほとんど頭に入ってる。サンダースとかアストロス、それに皇帝が創設したチームで国名と首都名を掛けてヘラクレスなんてのもあった事には驚いたよな。

 でも、やっぱり俺はソフィアの姓であるイクシードをチーム名に取り入れたいんだよなぁ。


 だが、妄想を膨らませて機嫌を良くする俺に対して、シルビアが言い放ったのは思いも寄らない言葉であった。



「無理よ。チーム登録は……」


「は?」



 言っている意味が分からずに口を開けたままになる俺の横では、ミアも驚いた表情を浮かべている。ただ、オーウェンだけは何故かニヤニヤと笑っているのが気になるが、それよりも今はシルビアの言葉の真意を確かめないと。



「ちょっと待て……無理ってどういう意味だ?」


「言葉の通りよ。今のままじゃ、私たちにチーム登録はできないのよ。」


「いや、だからその理由を聞いてんだって!」



 どこか言いにくそうに言葉を濁すシルビア。

 だが、俺には全く意味が分からない。ちゃんとした理由を聞かせてほしい。

 そう思って改めてシルビアを問いただそうとした矢先、口を開いたのはオーウェンだった。



「ソフィア、君は知らないのかい?ベスボルのチーム登録にはお金がかかるんだ。それもかなり高額のね。」


「お……お金が……?しかも高額って……それは……いったいいくらなんだ?!」



 まさか登録料がかかるなんて思ってもみなかった俺は、ついつい声を荒げてしまった。

 だが、シルビアは意外にも冷静だった。動揺する俺とミアに真面目な顔で説明していく。



「チーム登録には100万クレスかかるの。さすがにそんな大金、すぐには準備できないわよ。」


「ひゃ……100万クレス!?そんな……ぼったりくだろ!そんな金額!!」


「驚くでしょうけどね……これは適正な価格なのよね。」

 

 

 シルビアは小さくため息をついた。

 元々、ベスボルのリーグはマスターズリーグ、アマチュアリーグ、地区リーグの3リーグに分けられており、中でもマスターズで活躍できるのは大手スポンサーがつく実力を兼ね備えた10球団のみとなる。

 そして、その下位リーグであるアマチュアリーグには30球団程度、その下の地区リーグには100を超える球団がピラミッド型に存在しており、互いにしのぎを削り合って頂点を目指している。


 そんな中、俺たちと同じ様にベスボルリーグに参戦したいチームはまだまだたくさん存在しているらしいが、協会としてはこれ以上チーム数が増えると管理が行き届かなくなる事を懸念した様で、参戦を抑制する為に設定されたのがこのチーム登録制度なんだとか。



「結局この世界、お金がものを言うのよね。さすがにうちの会社だって100万クレスなんて大金、まだ無名のあんたには出せないし……」


「いや……さすがにそれは俺も望んでないけどさ。」



 そう言いつつも、これまで勉強不足だった自分を呪ってしまう。

 100万クレスなんて大金、簡単には用意できるものじゃない。なにせ、この世界の通貨は1クレス=10円程度だから、チーム登録には約1000万円ほどのお金が必要になる計算なのだ。

 

 一難去ってまた……

 そんな言葉が俺の頭をぐるぐると巡り続けていた。

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