107ストライク ヘンタイマッドとモルモット
「ま……まったく……冗談の通じん奴じゃ!」
「うるせぇ!この変態ジジィめ!」
全身焼け焦げたヒルモネが俺にキレている。
だが、セクハラには毅然とした態度で対応するのが大切だろう。世の中の女性の為を思えば、こんなエロクソジジィなんて滅べばいい。
「で、具体的にはどうすんだよ。そろそろ真面目にやれ!」
「くぅ……まったく最近の若いもんは年寄りを大事にしようという気持ちが……」
ケホケホと黒い煙を吐き出して、ぶつぶつと愚痴をこぼしているヒルモネはオーウェンにこっちへ来いとジェスチャーで伝える。
「ククク……ついに俺の出番か!」
相変わらず変なポーズをしながら、意気揚々とヒルモネとミアの前に立つオーウェンに対して、ヒルモネは何もツッコむ事なく淡々と指示を出す。
「お前、魔属性練ってみ。」
「よしきた!」
待ってましたとばかりに右手を目の前に出し、一瞬で紫色のオーラを手に纏う。
「ほら!こんな感じだね!」
え?早くない?魔力練るのって、慣れていてもけっこう集中力いるはずだけど……
俺はその早さに驚いてしまった。
この世界において、反射的に発動できるスキルは限られている。魔力というものはしっかりと練り込まないと、スキルの威力や精度がかなり落ちてしまう事が多いのだ。実際に俺だって魔力を練るには数秒の時間を要してしまう。
もちろん、父ジルベルトや兄のアルだってこんな芸当はできないだろう。彼らが今までそんな風に狩りを行うところを見たことがない。
「……お前、今のは魔力を練ったのか?」
「え?魔力……あぁ、練ってるよ。たぶんね!」
「たぶん……ってお前……」
そのやりとりを見ていたヒルモネがニカっと笑う。
「そこじゃよ、ソフィアちん。こやつら魔人族は魔属性に愛された種族じゃ。生まれた時からその使い方を本能的に知っておる。だからどうやってと聞いてもわからんのじゃ。」
「なら、やっぱりミアの症状を治す方法なんてわかんないじゃ……」
「だから、そう早まるでない。」
ヒルモネはそう言ってオーウェンに別の指示を出す。
「オーウェン、今度は魔属性以外の魔力を順番にじゃ。」
「承認した!」
今度は左手で左目を覆う様にポーズを取り、再び右手にオーラを纏わせていく。
確かにヒルモネの言う事は間違いない様だ。魔属性と違って発動するまでに少し時間がかかっているから、魔属性だけが特別である事はわかる。
だが、それよりも驚いたのはオーウェンが扱える属性の多さだった。彼が手に纏っていくオーラを順に追ってみると、赤、青、茶、黄色と4つの色を顕現させた事がわかる。そこから考えると、こいつは魔属性以外にも火、水、土、雷の4属性を扱える事になる。
「オーウェン……お前まさか、5つの属性を扱えるのか?」
「くくく……その通りさ!まぁ、天才の僕には簡単な事だけどね。」
相変わらずその態度にはイラつくが、彼の有能さには正直感心してしまった。そして、ヒルモネが俺に伝えたかった事が何なのかわかった気がする。
俺はヒルモネへと向き直り、気づいた事を伝える。
「こいつは魔属性以外の魔力をちゃんと使えている。そこに鍵があるんだろ?」
「ご名答じゃ!さすがソフィアちん。」
ヒルモネはそう笑うと、置いてあるボードの様なものに文字を書き綴った。
「この能力を"魔力共生"と言う。これは魔人族特有の能力で、他の魔力を食おうとする魔属性の魔力を緻密にコントロールしてちゃんと使える様にしとるんじゃ。」
ヒルモネ曰く、魔人族はもともと世界最強の種族と呼ばれていたそうだ。その当時、魔王を生み出すほど強靭な遺伝子はより多くの魔力を扱える様に魔力核を進化させた。もちろん、魔属性のコントロールを可能にする"魔力共生"という能力を添えて。
それが彼らを最強種と呼ぶに至らしめ、この力によって彼ら種族の能力は格段に跳ね上がり、長い歴史の中で魔王を輩出し続け、他種族を恐怖に陥れた……それが語り継がれる歴史だそうだ。
だが、話はそれだけではない。
「わしはな、この魔力共生は他の種族でも使えると考えたんじゃ。これが使えれば魔力操作の性能が格段に向上し、この世界は更なる進化を遂げられる。そう考えて長年に渡り研究を行ってきたわけじゃが、ファイス宗国ではそれらの考えは受け入れられんかった。」
ヒルモネはどこか寂しげにそう呟いた。
そう言えば、ヒルモネはある医療ミスが原因で宗国かからも業界からも追放されたとシルビアが言っていたな。
その研究が原因だとすれば、今からミアに行う治療はやばいものなんじゃないか?
そう感じて止めるべきかと思ったが、ヒルモネは俺の懸念を見通していたらしい。こちらを向いて真面目な顔でこう告げる。
「宗国は精霊神を信仰する国でな。魔人族の使う能力は信仰上の理由で受け入れられんかったんじゃな。それだけならまた良かったんじゃが、わしの医療技術に嫉妬した奴らがここぞとばかりに嘘をでっち上げ、わしは宗国から追放された訳じゃ。大した研究もさせてもらっとらんのに……」
「でもさ、あんたのその研究が安全って保証はないんだろ?しかも完成してないんじゃ話にならないじゃないか。」
「あぁ、それなら安心せい。」
ヒルモネは再びニカっと笑みを浮かべて、オーウェンを指差した。
「確かに宗国ではネズミとかちっさい生き物でしか研究がでけんかった。だが幸か不幸か、この貧民街に辿り着いた事でわしは最高のサンプルに出会ったんじゃ。」
「え……?僕の事か……?」
「そうじゃ!お前は丈夫だし、何より魔人族そのもの。こんな最高の研究対象はいないじゃろ!」
「ちょ……ちょっと待て。て事は、この前のあれや……あの時のあれも……突然飲まされた怪しげな薬とか……」
「3日前のあれもじゃ。」
「ヒィィィィ!!」
思い出してショックだったのか。
オーウェンは頭を抱え込んで蹲る。その横でヒルモネが笑いながら「サンキューじゃ!」と肩を叩いている。
俺は思った。
このじいさん、やっぱりマッドじゃん。ミアの治療……やめさせようかな、と。
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