106ストライク その原因とお約束
「魔力障害と言っても様々な症状があるんじゃが……」
シルビアにゴム手袋を嵌めてもらったヒルモネは、そう言って両手に魔力を宿した。
青白く輝くそれはおそらく聖属性の魔力……ニーナが使う魔力と同じ蒼色をしているからだ。
だが、彼女の透き通った綺麗な魔力とは少し違い、ヒルモネのそれは黒色が混じって濁っているように見える。
「大抵は魔力を創り出し、体全体へ供給する器官である魔力核に問題を抱えているケースが多いのぉ。」
彼は魔力を宿した両手でミアの体を挟み込むようにし、胸の辺りから腹部にかけて上からゆっくりと下ろしていく。それはまるで、病院の検査で機械を使って体をスキャンする様な感じだ。
それを繰り返すヒルモネに、俺は1つ質問を投げかける。
「魔力障害って治療法がないって聞いたんだけど……あんたはなんで治せるんだ?」
「ん……?あぁ、それはわしのスキルが他に比べてちと特殊じゃからじゃな。」
「特殊か……あんた自身の事を詳しく聞くつもりはないけどさ。なんでその技術を世の中に公表しないの?公表すればたくさんの人が助かるんじゃないの?」
「ふむ……その話については今度してやろう。今はミアちゃんの方が先決じゃろ?」
彼はこちらに振り向く事なくそう告げて最後に数回ほど両手を上下させると、顎に手を置いて何かを考え始めた。
「これは……やはりミアちゃんは魔属性の小核の大きさが普通より大きいみたいじゃな。」
「小核……?なんだそれ?」
魔力核の事はスーザンや兄のアルから聞いた事があったから知っていたけど、小核という器官は初めて聞いた。
「ん?お主はそんな事も知らんのか?小核とはな……」
そう言うと、ヒルモネは嬉しそうに俺たちの疑問に丁寧に答えてくれる。
小核とは魔力核を構成する器官であり、魔力核とはこれらが集合してできたもの。小核は属性ごとに存在していて、生き物は何の小核を魔力核の中に構成するかで使える魔力が決まってくる。
その構成は先天的なものから後天的に……つまりは生まれた後、何かが原因で小核の属性が変わったり、増えたりする事もあるそうだ。
まぁ、普通はそんな事がほとんど起こる事はなく、基本的には遺伝や種族の特性によって決まっているらしい。
「この小核たちにはそれぞれ個性があってな。魔力の生成量が多いやつもいれば少ないやつもいて、より多くの魔力を生成する小核の属性がその者の基本属性になる訳じゃな。どんなスキルが使えるかは、それで決まってくるという事じゃ。」
ミアとシルビアは彼の話を真剣に聞いており、なるほどと言った様子で頷いている。
「小核とは謂わば兄弟みたいなもんじゃ。さっきも言った通り、それぞれに個性がある。だから、個体によって強い核が弱い核をいじめたりする事がある。それが魔力障害に繋がるという訳じゃな。」
要するにミアの魔力障害は、魔属性の魔力を生み出す小核が他の小核の動きを阻害している事が原因である、という事らしい。
だが、それには1つ疑問が浮かぶ。
「でもさ、俺が見た時はミアの魔属性の魔力が他の魔力を侵食する様な……そんな動きをしていたんだけど、それも魔力障害の症状なのか?」
「侵食する……?あぁ、それは魔属性魔力の特徴じゃな。数ある属性の中でも魔属性はちぃ~と特別でのぉ。他の魔力を食ってその力を増幅させる特性を持っちょるんじゃ。まぁ、もともとは魔人族しか持つ事のない属性じゃし、あやつらのルーツは魔王じゃからな。」
ヒルモネはそう言ってくつくつと笑った。
魔王……か。そんな存在なんて漫画やアニメでしか知らないが、この世界は俺がいた世界とは別の世界だ。そういった存在がいてもおかしくはないだろうな。
でも、それでミアが苦しめられているのは納得がいかない。今もしこの世界に魔王が存在していたら俺はそいつをぶっ飛ばしに行き、この責任を取らせているだろう。
だが、いないものはどうしようもないし、その末裔であるオーウェンをぶっ飛ばしてもミアの体質が改善する訳でもない。
俺は大きくため息をつくと、改めてヒルモネへと問う。
「とりあえず、ミアの魔力障害の具体的な原因はわかった。でも、そんな特性を持つ魔属性をどうやって抑え込むんだ?」
魔属性が邪魔をしているなら、それをどうにかして抑え込まないとならないのでは?
そう考えていた俺に対してヒルモネが答えた内容に驚かされた。
「抑え込む?そんな事せんよ。そもそも魔力を抑え込む事なんてできんしな。」
「え?じゃあ一体どうやって……」
「ほれ、そこにおるだろうが。魔属性に詳しい男が。」
驚く俺に対し、ヒルモネはニヤリと笑いながらある人物に視線を向ける。
その先にいたのは例の中二病の魔人族。本人も少し驚いているようだ。
「え……?オーウェンが?でもこいつ、どうすれば治るかわからないって言ったぞ。」
「まぁ、それは嘘ではないじゃろ。魔人族っちゅうのは無意識に魔属性の魔力をコントロールしとるもんじゃから、本人も理論なんてわかっとらんだろうしな。ほら、虫とか野生の動物と同じじゃて。生まれながらに身についとるから本能的にできる事ちゅうのがあるじゃろ?」
キョトンとしたままオーウェンに再び目を向けると、彼は褒められたとでも勘違いしているのか、少し恥ずかしそうにしながら頭を掻いている。
こいつがミアの体質改善の鍵を握るって?こんな厨二病でアホな奴がか?
正直、オーウェンの事はまったく信じられない。
だが、ミアの症状を言い当てたヒルモネの技量は本物だと思う。
なら、少し癪だけどここはヒルモネに任せてみるしか選択肢はなさそうだ。
「わかった。あんたに任せるよ。」
俺がそう言うと彼はニンマリと笑ってこう告げた。
「OKじゃ!なら、その報酬にチチシリフトモモを……」
「うん!ファイアーボール!」
貧民街に爆音が響き渡った。
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