105ストライク 早とちりソフィアたん

「ミアちゃんと言ったかのぉ〜。それじゃあ、こっちゃおいで。」



 ヒルモネはそう言ってニンマリと笑いながら手招きをするが、ミアはその笑顔が少し怖いのだろう。ヒルモネに恐る恐る近づいていくミアを見て、俺はヒルモネに対して声を荒げた。



「じいさん!念の為言っとくが、ミアに変な事したらギルドへ突き出すだけじゃ済まないからな!」


「わかっちょるわ!……ったく、信用がないのぉ〜。」



 何が信用だ。自分がさっき何したのかよく考えやがれ。

 そう心の中で愚痴をこぼすが、とりあえずこのヒルモネという男を信じてみる事にしたのだから、ここは我慢しないといけない。

 少し心配だけど、ヒルモネの前に立つミアをシルビアとオーウェンとともに見守る事にする。



「よ〜しよし、ミアちゃん。まずはそこに立って魔力練ってみ?」


「え……?あ……はいにゃ……。」



 ヒルモネの指示に従い、ミアが魔力を練り始める。神眼で一応確認してみるが、やはりミアの体内では魔属性の魔力が燻っているのが見えた。



「ふむ……よかろ。やめてよろしい。」



 そう言われて一度練った魔力を解くミアに対して、ヒルモネは顎に手を置いて気の毒そうに頷く。

 


「本当に魔属性の魔力持ちとはな。ミアちゃんも難儀よのぉ〜。」


「え……今ので私の魔力がわかったのかにゃ?」



 驚くミアにヒルモネは二カリと笑う。歯抜けの笑顔がどこか輝かしい。



「もちろんじゃ!ミアちゃん、お主のメインは火属性かの。それに土属性と……その辺は典型的な獣人族の属性じゃな。じゃが、そいつらの動きを魔属性の魔力が邪魔しちょる。確かに獣人族は魔人族の系譜で、ごく稀に魔属性を発現する者がおると聞いた事があったが……わしも実物を見るのは初めてじゃわい!」



 嬉しそうにサングラスを光らせるヒルモネを見て、こいつは本当に期待できるのはと一瞬思ってしまったが、ふとオーウェンの時の事が頭をよぎってそれを止める。

 過度な期待はしない方が、裏切られた時に落胆は少ないからな。オーウェンの時みたいに。

 もちろん、ミアの事を思えば早く解消してあげたいのはやまやまだが、そんな簡単に解決できる事ならミアも悩んでいないだろうし。



「じーさんもこの症状は初めて診るって事か?」


「ん?まぁそうじゃな。だってわし人族じゃし、大昔の症例なんか文献でしか読んだ事ないもん。」



 ヒルモネは開き直った態度でそう告げた。

 あぁ……やっぱりか。これは今回も無駄足になりそうだな。



「……て事は、じーさんにもミアの症状は治せないって事か。」


「いや……治せるよ。」


「そうだよな。見た事もない症状なんて普通は治せるはずないし……」


「ん……?おい……」


 

 ヒルモネがキョトンとした表情を浮かべる中、俺は次にどうするべきか一人で検討を始める。


 ここでもダメとなると、俺たちに残された方法は二つかな。まずは獣人族の里に行って過去に同じ様な症例がないか調べる。それでダメなら、魔人族が住むと言われている大陸の果てに行き、彼らから魔属性の魔力の使い方を習う。

 どちらにせよ長い時間がかかってしまいそうだが、ミアとはチームを組むって決めたんだ。仲間の為になんだってやる覚悟はある。



「おい、ソフィアちゃんや。何を一人でぶつぶつと……」


「ちょっと静かにしてくれ。これからどうするか、いろいろと考えてるんだから。」


「いや……だからのぉ……」


「獣人族の里まではここから1ヶ月くらいか。大陸の果てまで行くなら……」


「お〜い、ソフィアちゃ〜ん。」


「だから!少し静かにしてくれって!」


「いや、だからわし治せるよって……」


「そうだろ!治せるんだ…………ろ?ん……?」



 何かがおかしい事に気がついてヒルモネに顔を向けると、彼はVサインをこちらに向けていた。


 混乱……

 何だかよくわからなくなってしまい、キョロキョロと周りを見回すと苦笑するシルビアが目に映る。



「今の……面白かったわよ。ソフィアにしては珍しかったわね。」


「…………あ?俺が……?」


「えぇ……まさに早とちりってやつよね。」


「くくく……確かに。」



 ヘラヘラと笑うシルビアがなんだかムカつくが、その横で偉そうに笑うオーウェンはさらにムカつく。

 だが、ミアが少し驚きつつも嬉しそうな表情を浮かべているのを見たら、何だかホッとしてヒルモネの方へ向き直る。



「じーさん、本当に治せるんだな。」


「だから、さっきからそう言っとるじゃろうが。」


「……絶対だな?」


「しつこいのぉ〜!当たり前じゃろうが。わしは稀代の天才名医ヒルモネ=ガーランドじゃぞ。医療に関しては当たり前じゃが、魔力に関しても卓越した知識量を持っとるわい。」


「……わかった。改めて、あんたを信用するよ。」



 俺の言葉にヒルモネは呆れて大きなため息をつく。だが、すぐに笑顔を浮かべるとミアに声をかけた。



「なら、ミアちゃんよ。今からヒルモネ式魔力施術を行うからのぉ。おりゃ、そこのエルフ。ちと手伝え。」


「え?私……?」


「そうじゃ!こんなじーさんと二人きりなんて不安でしかなかろうがて。お前さんがいたらミアちゃんも安心じゃろ。」



 そう言われて納得した様に立ち上がるシルビア。

 そんなヒルモネの気遣いを見て俺は少しだけ自分の考えを恥じ、彼に対する考えを改めるのであった。

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