104ストライク ヒルモネ=ガーランド
「……で、あんたがヒルモネ=ガーランドで間違いないんだな?」
腕を組み、仁王立ちで青筋を浮かべた俺がそう尋ねると、目の前で正座させられている男が悪びれた様子もなく笑う。
「いかにも!天才名医とはこのわしの事じゃ!」
禿げ上がった頭とサングラスみたいな眼鏡を光らせ、歯抜けた口を開くヒルモネを見たら怒りが萎れて呆れてしまう。
こいつが本当に宗国やここ帝国で専属の医療責任者を務めた男なのか?全く信じられないんだが……
こいつの元へと案内した元凶を睨みつけると、オーウェンはその殺意を感じ取って動揺し始める。
ちなみに、オーウェンもヒルモネの横で同じ様に正座をさせている。そして、2人とも頭には大きなたんこぶを乗せているのはお約束だ。
そもそも俺に……いや、ソフィアの体をあんな風にしやがった罪は重い。そして、こんなクソジジィを紹介したオーウェンも同罪である。
「オーウェン……」
「は……はい!!」
オーウェンは俺の疑念を感じ取った様で、名前を呼んだだけで素直にしゃべり出した。さすがのオーウェンも今はふざけどきではないと理解しているのだろう。
「か……彼は本当にヒルモネ=ガーランドで間違いない!だが、この人は少し病気なんだ……」
病気……ねぇ。俺にはピンピンしていて死ぬ気配すらないただのクソジジィにしか見えんが。それにさっきの犯罪的な行動と病気に何の関係があるんだ。
「病気って、何のだ?どこか悪いのか?」
そう尋ねると、オーウェンは気まずそうに視線を泳がせる。その隣では俺たちの会話を気にする事もなくヒルモネが大きく口を開けて笑っており、今この場を冷静に分析するとはっきり言って状況はカオスと言って過言ではない。
ミアは当たり前だが、あのシルビアさえも少し引いているほどに。
オーウェンに催促する様に視線を向けると、観念した様に頷いて話し出す。
「彼の病名は『スケベィ』という心の病で、女性を見ると発作が出るらしいんだ。特に綺麗な女性を見るとね。」
憐みを乗せた声で涙を流し、そう説明するオーウェンの話を聞いて俺は言葉を失った。
いやいやいや、『スケベィ』って絶対病気じゃないだろ。ただのエロいクソジジィって事じゃねぇか……オーウェンの奴、これ本気で言ってんの?ヒルモネは『スケベィ』という病気で、さっきの行為は単なる発作だと?
このふざけた状況はマジで一体何なんだろうか。
いまだに笑っているヒルモネとその横で涙を流すオーウェンを見て、苛立ちより困惑が強い。
もしや、ここは異世界だから俺の常識が通用しないとか!?どこまでが本当でどこからが嘘なんだ?やばい……混乱してきた。
だが、そんな俺にシルビアが助け舟を出してくれる。
「ソフィア、私長く生きてきたけど今までそんな病名は聞いた事ないわよ。」
「やっぱり!?」
よかった……シルビアが教えてくれなかったら本気で信じちゃってたかもしれなかった。あっぶねぇ……。
それにどうやらオーウェンも俺と同じ様に騙されていたようで、ヒルモネの方を見て驚いた顔で「そうなの?」と聞いている。その様子から考えても、オーウェンが嘘をついていた訳ではないという事がわかった。
まぁ、これまでもふざけて俺から制裁を受けてきたんだ。さすがにこいつだって何をすれば怒られるのかは理解しているはずだしな。
という事で、今回はオーウェンではなくヒルモネのジジィを睨みつける。
「おい、じーさん。あんた、オーウェンに適当な事を吹き込んだな?」
「はてさて……?何の事かのぉ?」
「しらばっくれるなよ。本当は『スケベィ』なんて病気はないくせに……。単純に自分の欲望を満たす為にオーウェンにも噓をついたんだろ?」
「マジかよ……」
どんよりとした雰囲気で落ち込むオーウェンを見て、騙されるお前もお前だと内心でツッコんでしまったが、それよりも今はこっちのクソジジィの方が先決だ。
「ばれてしまったかのぉ~」と剥げ頭を掻きながら笑っているヒルモネを見て、彼がおそらく自分の立場をわかっているのだと理解した。
こいつは俺たちがここに来た理由を知っている……だからこんな余裕の態度を取れるんだ。
だが、俺は構わずにオーウェンと同じ方法をとる事にした。
こういう輩は弱みを見せたら終わりだ。そこに付け込んでいろんな事を要求し始める。もしもこれで落ちなければ、ミアには悪いがまた時間をもらって別の方法を探すしかない。そうだ。そう割り切るしかないのである。
そして、もちろんその方法はと言うと……
「シルビア……こいつら、しょっぴけ。」
「え……いいの?」
その言葉にヒルモネがギョッとしている事を確認し、内心でニヤリと笑う。もちろん、その横ではオーウェンが「なんで俺まで!」と叫んでいる。
だが、俺は態度を変えることなくミアに視線を送る。
「あぁ、いい。ミアにはすまないが、こういう人種はさっさと処罰してもらった方が世の為であり、人の為でもある。」
「そうだにゃ……私はソフィアに従うにゃよ。」
「あ……あんたたちがいいなら別に私は構わないけど……」
ミアもなかなか俺の事をわかってきたようだ。察しがよくて助かります。
そう周りにはバレない様にミアへグッジョブサインを送ると、彼女もこっそりとにっこり笑う。
「じゃあ、あんたたち行くわよ。」
いつの間にか縄で縛られているヒルモネとオーウェンをシルビアが引き摺っていく。
だが、オーウェンがギャーギャーと叫ぶその横で、クソジジィが少し動揺しながら発言した内容に俺は驚いてしまった。
「え……ええのか?その獣人っ娘の魔力障害を治したくて来たんじゃろ?」
「な……?」
「え……?」
「うそ……?」
俺とミア、そしてシルビアは驚きを隠せず咄嗟にオーウェンを見る。その理由はもちろん、こいつが事前に伝えていたのではという疑念からだ。
しかし、オーウェン自身はなぜ自分を見られているのかがわかっていない様子だ。
俺は目の前で転がったままニンマリと笑みを浮かべる老人を、ただただ見つめていた。
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