97ストライク 怒りの鉄槌


「さっさと理由を話してもらえるか?」


「いや……その……あの……」



 目の前で俯く少年に改めて問いかけてみるが、彼は何やら挙動不審ではっきりと言おうとしない。

 その態度に少しイラッとして、俺は声を荒げて見せる。



「ナヨナヨすんな!お前、男だろ!はっきりとものを言え!なんでミアを攫った!?それとも、言えないようなやましい理由でもあるのか!?」


「そんな事は……!!な……ない!!」



 少年は俺の言葉に少しムキになって言い返す。

 まぁ少年と言っても彼は俺たちと同じくらいの歳か、もしくは1、2歳年下くらいの容姿だから微妙なところだ。

 髪は少し長めで片目を隠しているが、見えているもう片方の瞳は綺麗な紫色をしており、スーザンやシルビアから聞いている魔人族の特徴と一致する。

 言い返したものの、それ以上は何も言ってこない少年に対して俺は静かに問いかけた。



「君さ、名前はなんて言うんだ?俺はソフィア、ソフィア=イクシード。」



 相手はミアを攫った輩だから本来は容赦するつもりはなかったんだけど、彼からはあれ以降、特に殺気は感じられない。後ろで話を聞いてるミアも怯えてる様子はないから害はないだろう。

 なら、まずは話を聞いてもいいかなと思い、話を聞くにはまず自己紹介からだと考えた訳だ。

 だが……



「だ……誰がお前なんかに言うか……!」



 その言葉にカチンとくる。



「可愛いからって調子に乗るな!お前なんかブスだ!ブス!」



 俺が……ブス?こいつ何言ってんだ?

 俺はこう見えてもかなりの美少女だと自負してる。父親のジルベルトの溺愛ぶりや、ラルの態度なんかでもそれがよくわかるだろうに。

 とは言っても俺の精神年齢は30代だ。こいつの挑発に乗るほどお子ちゃまじゃないがな。



「ブース!ブース!!ブース!!」



 落ち着け、俺。

 こいつは子供、俺は大人だ。しかも、生前は子供だっていたんだ。ここは冷静になって諭す。それが大人のある行動だ。



「まぁ落ち着けよ。話をき……」


「うっせぇ!ブス!ブスブスブーーーーーース!!!」

 

「女の子にブスブス言ってんじゃねぇぇぇぇ!!」



 その瞬間、ガツンと鈍い音が辺りに響き渡った。


 あ……やってしまった……

 炎属性を纏った拳で脳天から頭蓋を一撃……

 もしかしたら死んだかも……


 後ろを振り向くと、苦笑いするミアがいる。



「ミア……ごめん、やっちゃった。」


「まぁ仕方ないにゃ。いいお灸になったんじゃにゃい?」


「でも、かなり鈍い音したし……」


「だにゃ……」



 うつ伏せで大の字で倒れる少年に目を向ける。若干、ピクピクしてるから死んではないようで安心した。

 だけど、あの拳で本気で殴るのはよくないな。本当に相手を殺しかねない。魔物にもここまでした事はないし、今後は気をつけよう。うん、そうしよう。



「お〜い、大丈夫か?」



 しゃがみ込んでツンツンしてみるが反応はない。

 自分がやってしまった事とは言え、どうしたもんかと首を傾げていると、後ろから息も絶え絶えに訴えてくる聞き覚えのある声が聞こえた。



「ちょ……はぁはぁ……ソフィア、あんた速過ぎ……」


「お!シルビア、遅かったな。」


「はぁ……あんたの脚が速過ぎるのよ。声をかけようとしたけどもういなかったじゃない。」



 シルビアは呆れたように肩をすくめてそう告げる。



「だってミアが攫われたんだぜ?普通は追いかけるだろ。」


「まぁ、そうなんだけど……それよりこいつが犯人なの?」



 シルビアは呼吸を整えながら倒れている少年に歩み寄ると、しゃがみ込んで振り返り、少年を指差してこちらに問う。



「あぁ、そうだ。事情があってこんな状況だけどな。」


「大きなたんこぶね。そっか、ソフィアにぶん殴られたんだ。」

 

「なっ……!なんでわかった!?」


「いやいや、誰にでもわかるでしょ。こんな事、ミアはしないだろうしね。あんたくらいしかいないわ。」



 なんとも心外な評価だ。俺はいつも暴力を振るってるわけじゃないのに。

 それにシルビアにそんな風に言われるのもなんだか腑に落ちなくてムカつくが、今はその事は置いておこう。本来の目的の達成がまだだしな。



「とりあえず、そいつは捕まえておこう。目を覚ましたらいろいろ聞き出さなきゃだし。」


「そうにゃ。私もなんで攫われたか知りたいし……」


「だな。なら、そうと決まれば当初の目的を果たそう。チームメイト候補ってやつをさっさと探し出して、ミアの問題も解決しなきゃ。」



 その言葉にミアはこくりと頷いたが、シルビアはすぐには返事をしなかった。その事が気になってどうしたのかと声をかけると、彼女から驚くべき事実が告げられる。



「探してたチームメイト候補って……こいつなのよね。」


「「えぇ!!」」

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