96ストライク 鬼ごっこリザルト


「で、なんでミアを攫ったんだ?」


「それは……えぇ〜と……」



 僕の名前はオーウェン=シュタイン。

 歳は今年で14、この貧民街を根城に一人で気高く生きるアンダーテイカー、汚れた仕事はなんでも受ける請負人というやつだ。

 知っての通り、僕は魔人族だ。魔人族は魔王を生み出す種族でもあるから昔から忌み嫌われてきた種族なんだけど、今ではそんな力もなく大陸の隅でひっそりと暮らしている訳で……そんな魔人族の僕がこんなところで何をやっているのかと疑問も浮かぶだろうけど、その話をすると長くなるから今は割愛しておこうと思う。


 と言うか、今この状況でそんな話はできないし……


 僕は今、正座をさせられている。

 その上で、目の前に腕を組んで立つ金髪の美少女に説教を喰らっている。

 

 なんでこんな事態となったのか。

 それを説明するには、時間を数刻ほど巻き戻す必要がある……



〜数刻ほど前〜



「僕と鬼ごっこしようなんて100万年早いんだよ!」



 僕はそう笑いながら、ミアと呼ばれる獣人族の女の子を抱えて廃墟の上を走っていた。


 逃げ足には自信があった。

 これまで長い間、悪事を生業にしてきたのだ。捕まれば死が待っているこの仕事を長年続けられてきたのは、この逃げ足の速さがあったからでもある。

 もちろん強さにも自信はあるが、無益な戦いは避けるべきだし、それがアンダーテイカーとして生き延びる術でもある訳で。


 だが……



「甘いな!森の魔物の方がもっと鋭い動きをするぞ!」



 真後ろから少女の声が聞こえて驚いた。

 けっこう本気で走っているはずなのに……今までこのスピードには誰も追いつけなかったのに……

 ちらりと振り向けば、後ろには飄々とした様子で追いかけてくる金髪の美少女の姿が確認できる。



「だから言ったにゃ!ソフィアは怖いにゃよ!捕まってボコボコにされちゃうんだにゃ!」


「だ……だまれ!」



 ミアちゃんの言葉に焦りが募るが、その言葉を証明せんとばかりに金髪の美少女が距離を詰めてくる。しかも、多分あれは本気じゃない……僕はそう確信した。



(自慢じゃないが……いや自慢だけど、僕はここら辺じゃけっこう名が通っているんだ。そんじょそこらの大人には喧嘩じゃ絶対に負けないし、これまで請け負った仕事は全てミッションコンプリートさせてきた……そんな僕が同じ歳くらいの女の子に遊ばれてるなんて!!)



 さすがの僕もプライドがを傷つけられて落ち込みそうになるが、このままおめおめと捕まる訳にもいかない。



(だけど、ここからが本番だ……絶対に逃げ切ってみせる!)



 そう覚悟を決めると、一気に魔力を練り込んで少女の目の前にあるスキルを発動させた。



「エビルブラインド!!」



 そう告げるや否や、金髪の美少女の姿が紫黒色の煙に包まれ、その様子を見届けた僕は逃げる速度をいっそう上げた。


 このスキルは目眩しによく使う。

 だが、もちろんそれだけのスキルではない。僕の意思によって作り上げられた見えない無数の触手たちが、煙の中を縦横無尽に駆け巡り対象を捕縛する。それがこのスキルのすごいところだ。

 ミアちゃんを攫う時にも使ったスキルだけど、あの時は一瞬の隙を作りたかっただけだったから触手までは発動させなかった……それが今回の事態を引き起こしたのだから、今度は全力で行かせてもらう。

 今頃、煙の中で目に視えない触手たちに動きを止められた少女は、その原因がわからずに四苦八苦しているはずだ。美少女と触手とかお約束にも程があるけど、そんな事を気にしている暇はない。この隙に一気に逃げ切ってやる。




 しかし、世の中そううまく行かないものだ。

 後ろから「おらぁ!」という少女とは思えないセリフが聞こえ、煙を突き破るようにして金髪の美少女が飛び出してきたのだ。



「あっぶねぇ〜!なんだあの触手、気持ち悪りぃな!!」



 少し焦った程度の少女の態度に怒りや焦りよりも驚きが先行した。



(な……なぜ触手が視えるんだ!?あれは普通の魔力操作じゃ絶対に視えないはずなのに!!)



 驚きのあまり、一瞬だけ足を止めそうになるが、多くの修羅場を潜り抜けてきた僕だからこそ、こういう時に現状を分析できる冷静さがある。



(違うな……あの娘は普通じゃないんだ。だからこそ僕は今追われている。この現状は自分の慢心が生み出したものだ。だが……それと逃げ切れない事は別の話!!)



 足場を強く蹴って高く跳躍しながら振り返る。

 脇ではミアちゃんがその高さに驚いてギャアギャアと騒いでいるが、それに反応してあげられる余裕は今の僕にはない。


 視線の先には僕を見上げる金髪の美少女。

 そんな彼女に対して、魔力を練り込んだ片手を向けて大きく叫ぶ。

 

 

「これは絶対に避けられない!!エビルブラストォォォォ!!」



 自分の叫びと同時に放たれた紫黒色のエネルギー波が、屋根の上からこちらを見上げる金髪の美少女へと向かって駆け抜ける。

 だが、不思議な事に少女はそれをただ見ているだけで、避ける素振りすら見せない。確かに回避不可のスキルだが、普通なら避けるか防ごうとするものだ。


 このスキルが避けられないのは、追跡型のスキルであるが故。対象が避けようとすればそれをどこまでも追い続けるし、動かないならそのままぶち当たり、大きな爆発を巻き起こすだけである。


 そのはずなのに……



「なっ……!!?」



 放ったスキルが忽然と姿を消した事に言葉を失う。目の前で何が起きたのかわからないまま、笑っている金髪の美少女が視界に映る。

 その姿は……まるで愉悦に浸るかのように笑うその姿は……



「はい!捕獲完了な!」



 これが数刻前に起きた出来事だった。

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