92ストライク もやもやしちゃう
「解決方法がないって……どういう事だよ!」
ミアが不安げな様子で見守る中、俺がそう声を荒げるとスーザンもシルビアも困ったように顔見合わせた。
「魔力障害というのはだな、魔力の流れがなんらかの原因で滞り、それによって体外への魔力の発現が困難になる症状の事を指すんだ……」
その症例であるミア自身が目の前にいる手前、スーザンは少し話しづらそうに説明を続ける。
「これを発症した者は魔力操作が困難になり、さらには魔力を外部エネルギーへ変換する事もうまくいかなくなる。だから、最終的にスキルの発現には至らなかったり、中途半端な発現となる訳だ。」
そこまで聞いた俺は、ミアのぎこちない魔力操作と上半身にしか現れなかった魔力の理由を推測する。
(魔力の流れが上半身だけで滞ってしまい魔力操作が上手くいかず、だから上半身にしか魔力が発現しなかったという事か。でも、ミアはスキルを使える時もあるって言ってた……俺と出会った時がまさにそうだったしな。なら、下半身への魔力の流れを止めている理由を見つければ解決しそうな気もするけど……)
内心でそう首を捻るが、答えが見つかる訳でもない。俺は医者でも研究者でもなく、こういう医学的な分野に長けているわけではないし、確かにスポーツ医学の事についてならば少しは知識もあるが、それだって基本的には専属のトレーナーに任せていた訳で。
そんな事を考えていると、今度はシルビアが話しづらそうに口を開いた。
「魔力障害って、いわば病気の一種みたいなものなんだけど、その原因はほとんど解明されてないから治しようもない……だから解決方法がないって言ったの。とても言いづらい事だけどね。」
その言葉は、ミアにとってかなりショックなものだったのだろう。ヘナヘナとその場に座り込んで俯いてしまった。
そんなミアにどう声をかけようかと難儀しているスーザンたちに対して、諦めたくない俺は疑問をぶつけていく。
「スーザンは魔力の流れがわかるだろ?ミアの魔力の滞りがどこにあるのかとか、わかんないの?」
「そう考える気持ちもわかるが……前にも言ったとおり、私に視えるのは"流れ方"だけだ。流れていないものは視えないんだよ。流れているところと流れていないところの境目はわかるが、その原因まではわからん。」
スーザンはお手上げだというように両手をあげて目を瞑った。
スーザンでもダメだとなると、手詰まり感が半端ない。彼女の知識はこの中で一番豊富だから、けっこう頼りにしてたんだけど……シルビアも長く生きているから確かに知識も豊富なんだが、こいつの場合、その知識に偏りがあり過ぎるから参考にならない事が多くてあんまり頼りにならない。
どうしたものかと腕を組んで考えてみるが、すぐにいい案が浮かべば苦労はしない。とは言え、このままミアを放っておく訳にもいかないから、やっぱり何か考えないといけない。
(だけど、野球以外の事で何かを考えるのはもともと得意じゃないからな。なら、やっぱりミアとベスボルをするしてみるか……)
そう考えて、座り込んでいるミアを見る。
相当落ち込んでいるようだが、それだけでは何も解決しない事は本人だってわかっているだろう。だから、ここは敢えてミアを鼓舞するように声をかけた。
「ミア、落ち込んでる暇なんてないぞ!今度は俺が投げるボールを打ってみてくれるか?もちろん、魔力を練ってだ。」
「で……でも、今見てもらったように私は上手く魔力が寝れないにゃ。」
「それはわかっているさ。でも、ミアだって今のままでいいのか?自分が抱える問題を解決したいだろ?」
「そ……それは……そうだけどにゃ……」
「ならさ、落ち込んでそこに座り込んでいるだけじゃ何も解決しないだろ?」
その言葉を聞いたミアは、涙目ながらにこくりと小さく頷いた。
その様子を見て少し酷かもしれないと感じたが、これはミア自身の問題で彼女自身が乗り越えていくしかないのだ。人は誰だって壁にぶつかった時、それを乗り越える為に勇気を振り絞る必要がある。簡単なことではないけれど、ミアにはここで勇気を出してもらわないといけないし、俺たちができる事はミアの勇気を後押しする事くらいだと笑顔を向ける。
「よし!じゃあ、ミアはそこで構えてくれ。とりあえず、簡単なスキルを使って俺が投げるからそれを打ち返して!」
「わ……わかったにゃ…やってみるにゃ!」
再びバットを持ったミアが魔力を練り始めた事を確認し、一定の距離を取って俺も魔力を練り始める。だが、神眼に映るミアの魔力は相変わらず上半身で循環するだけで下半身にその反応は見られない。そして、やはり気になるのは先ほども見えたミアの下半身でちらつく黒いモヤだ。
(あのモヤ、一体なんなんだろう?さっきも見えたけど、なんか量が増えてる気がする……だが、今はそれよりも実践でミアの魔力の流れがどう動くのかが重要か。)
「ミア、いくぞ!」
俺の言葉に不安な表情で頷くミア。
そんな彼女に向けて、俺は心を鬼にして火属性のスキルを放った。
「これはヒートバレットだ!火属性のスキル、火を纏わせた単純な直球だからよく見極めたら打てるはずだよ!」
そう叫んだ俺は神眼を使ってミアを注視する。彼女も対応しようと必死に魔力を練っているようで、上半身では赤と茶色の魔力がぐるぐると激しく循環している様子が窺える。
(やっぱり、魔力は下半身まで循環していないか……ん?なんだ……黒いモヤが全身に移動し始めた?)
それは突然の事だった。
先ほどからミアの下半身でチラついていた黒いモヤが突然大きく揺らめいたかと思えば、今度は上半身で巡る魔力を侵食し始めたのだ。まるで、魔力を喰らい成長する生き物のようにモヤはどんどんと大きくなり、やがては火と土属性の魔力を全て飲み込んでいく。
そして……
(やっぱりあのモヤが……ミアの夢を妨げる原因なんだな!)
結局、何のスキルも発動できずに必死にバットを振り抜くミアを見ながら、俺は拳を握り締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます