89ストライク 友達なんだから


「なるほどな。獣人族は力が全てと考える種族だから、彼らの中では個々の強さが全てに優先される。そんな中で居場所を見つけられずに思わず村を飛び出して来た、と言うわけか。」



 スーザンの言葉に無言で頷くミア。

 そんな彼女を見て、俺はなんと声をかけようか思案していた。


 確かに俺がいた世界にも差別はまだまだ存在したし、それが悪い事だという事くらいの認識はある。だが、俺自身がそういう類の事に詳しいわけじゃないから、安易に相手を非難する事はできないとも思う訳で……。

 ましてや、ここは異世界であって俺が知らない事はまだまだたくさんある。この世界には俺たち"ヒト属"意外にもいろんな種族がいると聞いているし、そんな中で獣人族には獣人族なりの歴史や文化、考え方、生き方があるはずなのだ。

 要するに、今の俺にはミアが受けた扱いが悪い事なのかどうかは判断できない。それなら、彼女にかける言葉はそう難しくない。

 


「で、結局のところ、ミアはこれからどうしたいんだ?」



 その言葉に俯いていたミアが顔を上げた。

 その目には涙が浮かんでおり、それだけ見てもこれまでの経験が彼女にとってとても辛いものだったのだと理解できた。

 突然の問いにミアは言葉が出てこないようなので、もう一度、彼女に笑顔を向けて問う。



「ミアは夢を叶えたいんじゃないのか?その為に君は今、ここに居るんだろ?」



 それを聞くと、ミアの眼に小さくだが光が戻った気がした。それを確信した俺は、ここぞとばかりに言葉を連ねる。



「知ってのとおり、俺の夢はプロのベスボル選手になる事だ。これは絶対に変わらないし、確実に叶えるつもり。でも、一人じゃベスボルはできない事も知ってる……」



 そう……確かにベスボルは野球以上に個人の力に左右されるスポーツだし、ある程度のレベルまでなら一匹狼を貫く選手もいると聞く。

 だが、プロに行くなら仲間の存在は絶対に必須。

 なぜなら、プロの世界では必ず上には上がいて、一人でやっていく事には限界があるからだ。個々の力には必ず強みと弱みがあるし、それを補う為のチーム制……それは元の世界でもこの世界でも変わる事はないと、俺は考えている。



「チームスポーツには、互いの弱さを認め合い支え合う仲間が必要。出会ってすぐに意気投合できたミアは、俺にとってすでにかけがえのない友達だ。だからこそ、ミアにはチームに入って欲しいと思ってる。」



 そこまで話すと俺は口を閉じた。

 俺は常々、相手を説得するのに多くの言葉は不要だと考えているタイプだ。どんなに長く話そうとも、最後に決断するのは本人であって俺じゃないし、ミアがどう決断したとしてもそれは彼女の選択……彼女が進むべき人生の選択なのだから。


 静かな時間が流れる。

 ミアは再び俯いて悩んでいるようだったが、俺もスーザンもシルビアも俺も静かに見守った。




 少しの間が過ぎた後、ミアがゆっくりと顔を上げた。

 俺を見るその眼には先ほどよりも強い光が宿っており、その表情には何かしらの決意が浮かんでいる。

 そんな彼女は、目を瞑ってゆっくりと深呼吸をすると静かに口を開いた。



「ソフィアと出会って、ソフィアの事を少しずつ知る事でわかった事が一つあるにゃ。」



 閉じた目を開いて、俺の事をジッと見つめるミアの視線に応えるように、俺もミアへ真剣な眼差しを送る。



「ソフィアはどんな事にも前向きなんだにゃ。偏属者でしかも無属性だにゃんて、わたしなら人生を諦めているレベルにゃ。でも、今の君は魔力もスキルも使えて、そして夢を追いかけている……」



 ミアの視線が下へと落ちる。



「わたしは仲間にいつもバカにされてきたにゃ……落ちこぼれだの一族の恥だのたくさん見下されてきたから、自分で自分自身の事を認める事ができなくなってる……だから、今日改めてソフィアに必要とされている事がとっても嬉しかったにゃ。」


「なら……!」


「シルビア、まだだよ。」



 相変わらず空気を読まないシルビアが、早まって歓喜の声を上げようとしたところを俺が制止する。

 そんな俺の気遣いに対して、ミアは感謝するように笑みを浮かべて話し続ける。



「でも、だめなんだにゃ。今のわたしのままじゃだめ……このままじゃ確実にソフィアたちに迷惑をかけるから……だから、わたしは一緒にはプレーできないにゃ。」



 ミアはあくまでも話の核心には触れたくないらしく、そのまま再び下を向いてしまった。

 彼女の言葉を聞いて、シルビアは残念そうな表情を浮かべ、スーザンは無言のまま目を閉じる。二人ともミアがチームに入らない事を残念に思っているように見えた。


 しかし、俺はそうは思わない。

 なぜなら、ミア自身がチームに入るかどうかをはっきりと決めきれていない事が、彼女を見ていてわかったからだ。

 おそらくだが、自分に自信を持てない事とは別に彼女は何かしらの問題を抱えている。そして、その問題が解決しない限り、俺たちに迷惑をかけてしまうと考えている。だから、"まだ"一緒にプレーできないと言ったのだろう。

 そこまで考えた俺は、核心をつく一言を告げる。



「じゃあ、ミアが今抱えている問題を解決すれば、一緒にプレーできる……そういう事でいい?」


「え……?ソ……ソフィア、なんでそれを……」



 この言葉にミアは驚いているようだが、その反応からするに俺の予想は間違っていないようだ。

 唖然としたままの彼女に対して、俺はこうも告げた。



「さっき聞いたミアの話の中で、気になる点が一つあったんだ。ミアはたまに体が動かしにくい時があるって言ってたけど、具体的にはどんな感覚なんだ?」


「そうだ。私もそこが気にかかっていたんだ。」


 俺の言葉を聞いて、閉じていた目を開いて同意するスーザンと視線を交わしつつ、理解が追いつかないシルビアを尻目にミアを再び見る。



「その問題は一緒に解決する。俺たちはもう友達なんだから!」

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