78ストライク 旅立ちの日
「よし……これで準備は万端ね。怪我と病気には気をつけて。ちゃんとご飯は食べるのよ。」
「うん!母さん、ありがとう!」
ニーナからリュックを受け取ったソフィアは笑顔で応えた。一方で、ニーナの後ろではジルベルトが大号泣しており、その顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃだ。アルが慰めるように背中をさすっている姿は、なんともいたたまれない。よほどソフィアが旅立つのが悲しいようだが、ここまで子離れできてない親も珍しいなとミアは思う。
アルが一度、父の背をさするのをやめて立ち上がり、ソフィアへ笑顔を向けた。
「ソフィア、僕たちの分まで頑張ってくれよ。」
「もちろんだよ、アル兄!任せといて!」
アルはベスボルが好きで、小さい頃はベスボル選手に憧れていたらしい。だけど、長男として稼業を継がなければいけなかった為、その夢は早くから諦めたらしい。
ソフィアはアルの言葉に笑い、拳を握り締めて互いにコツンとぶつける。
それが終わると今度はジーナの番だ。
「あんまり調子に乗らないようにね。ソフィアって、いつもあと先考えずに突っ走るんだからさぁ。」
「わかってるって!ジーナって、ほんっとうに小言増えたよね。」
ソフィアの言葉に呆れたように肩をすくめるジーナだが、ソフィアとの別れを惜しんでいるのは誰にでもわかる。この小言は彼女なりのお別れの挨拶であって、ソフィアもそれを理解しているからこそ、お互いに悲しみを紛らわせるように最後のケンカをしているのだ。
それもひと段落すると、ソフィアはリュックを背負う。
「それじゃあ、行ってくるよ!ミア、行こう!」
ソフィアの言葉に頷いて、彼女の家族へ頭を下げた。
「少しの間でしたが、お世話になりましたにゃ。この御恩は忘れないし、必ずお返ししますにゃ。獣人族の誇りにかけてにゃ。」
「フフ……そう気負わないいいのよ。私たちはもう家族同然なんだしね。ミアちゃん、ソフィアの事よろしくね。」
ニーナの微笑みは相変わらず女神にしか見えず、直視できない。その横ではアルとジーナも笑って「ソフィアをよろしく。」と言ってくれる。
この信頼には絶対に応えなければ。
ソフィアの為に、自分に何ができるのかはまだわからないけど、初めてできた他種族の友達だからその力になれるように頑張りたい。
……とはいえ、自分よりも強いソフィアにはそんな心配は無縁だろうけれど。
歩きながら後ろを振り返ると、ニーナたちが手を振ってくれている。それにソフィアが返したので、自分も同じように手を振り返す。
ここから新たにスタートするベスボル選手への道。
ソフィアとはアネモスまでの短い旅になるだろうけれど、だからこそこの出逢いに感謝しなければ。
「ゾブィアァァァァァァァァ!!!!いがないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
遠くでジルベルトの喚き声が聞こえた。
家族にここまで愛されているソフィアの事を本当に羨ましく感じるが、当の本人は苦笑いを浮かべて頬を掻いているので、それには同じ様に苦笑いで返す。
同じ夢を目指す同い年の少女ソフィア=イクシード。
どうかこれからも彼女との縁が続きますようにと願いながら、私はソフィアとともにアネモスへと向かうのであった。
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