77ストライク 俺を超えていけVer.2②
「空挺炎撃ぃぃぃぃぃ!!」
咆哮と同時に、ジルベルトのしなる右腕からいくつもの火球が放たれた。その数はおおよそ10個ほどで、縦から横からと様々な角度からソフィアへ向けて襲いかかる。
ーーー間に合わなかった……
二人を止める事ができなかった悔しさに、涙を浮かべてその場に座り込む。自分にはもう、ジルベルトが放ったスキルの行方を追う事しかできない。
飛んでいく火球はあらゆる方向へと駆け抜けていくが、それらが単に撹乱するためのものではない事は自分にもわかる。全てに実体があり、その一つ一つが高い殺傷性を持つ炎の斬撃……そんなものを実の娘に向ける親がここにもいたなんて。そう考えるとゾッとした。
だが、不思議な事にソフィアからは特に焦った様子はなく、むしろ楽しげに笑っている様子は少し不気味にも感じられる。
よほど自信があるのだろうか……それとも、実は彼女は生来のバトルジャンキーだとか……?
いろいろと考え込んでしまうが、その答えは目の前でソフィアが叩き出した結果によりすぐに理解する事になる。
「父さん!!もうそのスキルは俺に通用しないぜ!!」
「な……なにぃ!?」
自信満々な言葉に驚くジルベルトに対して、ソフィアは笑みをこぼしながら一瞬だけ目を閉じる。勝負の最中に目を閉じるなんて本来はあり得ない事だが、その理由は彼女が次に目を開く事で理解できた。
両眼に揺れる赤と青の炎のような魔力……見たことも聞いたこともないそのスキルに、すっかり目を奪われて釘付けになってしまう。
「神眼と魔眼……!?お前……使いこなせるようになったのか!?」
「あぁ!魔物狩りでたっくさん練習したからな!」
ソフィアはそう豪語すると、まるでベスボル選手のように軸足を固定してテイクバックし……
(……あれ?)
そこである事に気がついた。
今、目の前で繰り広げられているのは、闘いではなくベスボルなのでは……と。
子が親を超えるための試練である事は間違いないが、殺伐とした殺し合いなどではなく単なるベスボルの勝負ではないか……と。その証拠に、ソフィアが握るのはベスボル用のバットだとすぐに認識できた。
そして、それに気づいた途端、自分の早とちりに対する恥ずかしさが一気に込み上げてくる。状況をよく確かめもせずに、考えなしに突っ走るのは自分の悪い癖……両手で熱くなる頬を隠しながら、どこにも向けられない感情の拠り所を探してワタワタとしてしまう。
……が、そんな事をしている間にソフィアたちの勝負に決着がついてしまった。彼らのいる方向から驚くほどの轟音が鳴り響き、ハッとして再び視線を戻せばソフィアがフォールスロー(打った後にバットを振り切る動作)を行い、対するジルベルトはボールの行方を追うように振り返っている様子が窺える。ソフィアのバットには水属性の魔力が残っていたが、バットの先を地面にコツンっと当てた瞬間にそれらは霧散して消えた。
項垂れるジルベルトと大きくガッツポーズをするソフィアを見れば、どちらに軍配が上がったかは一目瞭然だが、ソフィアはあの脅威的なスキルをいったいどのようにして攻略したのだろうか。おそらく、無数の火球の中にボールは一つしかなかっただろうけど、そもそもあれだけたくさんの火球が同時に飛んでくれば、踏み込みが甘くなるか腰が引けて打つ事はできないはず……
そう考えると、空挺炎撃を澄ました顔で攻略したソフィアの胆力の凄まじさだけでもわかった。
「勝負あったね。」
後ろから聞こえてきたジーナの声に自然と振り返る。
さきほど自分に声をかけてくれたのはジーナであったと理解しつつ、事の顛末を尋ねてみる。
「いったい何の騒ぎだったのにゃ?」
「ん〜とね……簡単に説明するとソフィアは独り立ちしたいけど、父さんがそれを嫌がって無理やり引き止めようとした。で、勢い余って勝負を挑んだけど、ソフィアの実力を測り違えて負けちゃった。そんなところかなぁ。」
ジーナはそうくつくつと笑っているが、ソフィアは確か13歳で自分と同い年だったはずだ。それなのに、アネモスの冒険者ギルドにも登録していて、魔物の狩りを許可されている強者である。
自分から見れば超天才、神童と呼ばれてもおかしくないレベルだし、さっきのスキルをあれだけ余裕で打ち返すなんて……
地面を何度も叩きつけるジルベルトをよそに、飛び上がって喜ぶソフィアを見ながら、ミアは複雑な気持ちを抱く。
そしてその夜、家族会議が開かれてソフィアの旅立ちが決定し、翌日には自分を連れてアネモスへ向かう事が決まった。
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