第61話 開会式に臨んだ勇者は……②

ちょっとここで各参加者の自己紹介をダイジェストで振り返ろう。


 まずはエントリーナンバー1番のベヴァリ。


「みんなーこーんばーんわー! デリスタンベリから来たベヴァリだよー。スリーサイズは上から95、60、92。チャームポイントは、ぷるんぷるんの唇でーす!! みんなに届けー。(投げキッス)」


 続いてエントリーナンバー7番のエルピディア。


「みーんなー、ちわっす!! べクラフト代表のエルピディアっす!! 盛り上がってるぅー! イエー!! スリーサイズは83、54、80。スレンダーボディがウリっす。チャームポイントは、鎖骨っす。ガンバるっす。応援よろしくっす!」


 続いてエントリーナンバー11番のブリジット。


「みなさん、よろしくお願いしますね。リューベルから来ましたブリジットと言います。スリーサイズは88、66、93。ちょっとぽっちゃり? かな? チャームポイントは、笑った時にできるエクボです。今日は素敵な時間を一緒に過ごしましょうね」


 と、いう感じで自己紹介とはつまり<名前><スリーサイズ><チャームポイント>を言う決まりになっているのだ。リリアは名前しか言っていない。


 舞台袖でジルは頭を抱えていた。「しまったよ! リーリに言ってなかったよ!」


 観衆はリリアの言葉を待っていた。リリアも何かを待たれている空気だけは感じていたのだが──


──な、なに? 私になにしろって言うの!?


 見かねたMCが助け舟を出した。


「へーい、リーリ。スリーサイズを言うのさ! 君の素敵なバディの秘密の数字を教えちゃってくれよぉ! ベイベッ!! あとチャームポイントもねー」


──す、スリーサイズぅ? 昔、鎧を発注する時、武器屋さんで測ったけど、あの時、私17歳だったんですけどぉ。その時はたしか……77、54、78だったような。でも、胸はあの時からだいぶ成長したから77ってことはないと思うんだよね……90にしとこう!90はあるよきっと!! ……いや、90はちょっと厚かましいな……89かなぁ。ウエストはあの時と変わってない! はず……はず? はずぅ!! あの時よりちょっとお腹でちゃったけど……まあ誤差の範囲ってことね。で、ヒップは……


 リリアは数秒の間に頭をフル回転させて自分なりに納得のいく数値を捏造した。


「え、えーと上から、89、54、90です」と言ってリリアはにっこり笑ってみせた。いつの間にかリリアはウソをスラスラと言える女になっていた。が──


「リーリちゃん、それはちょっと盛りすぎよ……」リュドミラはバックヤードで思わずつぶやいた。


 観衆の間に釈然としない空気が漂う中、リリアは続けた。


「チャームポイントは顔のアザです」リリアは自分の顔の中央を斜めに走る三日月型のアザを指でなぞった。


「リーリ……あんた……」ジルは目を丸くした。


「実際、チャームポイントじゃないのかもしれないんですけど、でも一番目を引くと思うんです。あ、これ魔物と戦った……いや、襲われた時にできたんですけど、昔はすっごくイヤでした。っていうか、今でもイヤはイヤだし、治るのなら治したいって思わないでもないけど。みんな気を使ってくれてあんまり言わないけど、きっと私を知ってる人って顔にアザがあるのが私なんですよね。もしアザがなくなったら驚いちゃいますよね。ってことでこれが私。ごめんなさい、やっぱりチャームポイントじゃないですよね……アハハ」


 リリアはミスコンに出場することになった時から決めていた。アザのことを自分から言うと。勇者として人前に出る機会は少なくなかった。そのたびにこう思っていた。


──本当はみんなアザのことでいろいろ思ってるんだろうなぁ。気をつかわなくていいのに。そんなかわいそうって目で見ないでよ。私、気にしてないもん。気にしてないってのはウソか。でも……そんな腫れ物に触るような視線、イヤだ。


 確かに好奇の目にさらされることもあった。だが、そんな思いを増幅させていたのは自分自身だった。街を歩くときはうつむいてなるべく見えないようにした。リトヴィエノフとのデートの時も……。だから、ハッキリと言ってくれたリトヴィエノフの言葉に心が震えたのだ。


 リトヴィエノフへの思いは叶うことはなかったが、失恋を経験しリリアは確かに成長していた。強くなっていた。もう俯いて歩くリリアはいない。今、リリアはステージの上で堂々と真っ直ぐ前を見て立っている。


「みなさん、私はこのアザとの付き合い方がようやく分かってきたような気がするんです。今日のコンテストもいい機会になると思うし。だから、今、とってもいい気分です!」リリアは一点の曇りもなく言い切った。


「よく言ったよ! リーリ。あんたは最高さぁ!!」舞台袖からジルが叫ぶと、一気に大歓声が巻き起こった。ブルニュスも叫びながら手がちぎれそうになるくらいの拍手をしている。応援団の中には涙を流している者もいた。


 リリアの言葉は大観衆の心を動かしたのだ。スリーサイズの捏造はしたが……。

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