第59話 大観衆にビビった勇者は……

 オアシスクイーンコンテストはオアシスの辺りにあるアドレキサンビーチで行われる。オアシスをバックに巨大ステージが組み上げられ、無数の松明が煌々と照らす。人出は毎年1万人を下らないという。


 出場者は15人。5人の審査員と観客投票でクイーンを選出する。(観客は1人につき1ポイント。審査員は1人につき2000ポイント所有し配分する。(例えば1番に1000ポイント、10番に600ポイント、7番に400ポイントといった具合に)


 プログラムは以下の通りだ。


・開会式 (全員参加)

・自己紹介&ウォーキング(エントリーナンバー順に1人ずつ)

・休憩&中間投票

・途中経過発表

・アピールタイム(中間投票の下位から順に1人ずつ)

・休憩&最終投票

・閉会式&結果発表


 リリアはリュドミラと一緒にバックヤードにいた。ステージ前にどれくらいのギャラリーがいるのか見えないが、とんでもない数であることは分かった。観衆の声が地鳴りのように響くから。


「ね、ねえリュドミラちゃん、私、やっぱり帰ろうかな……なーんて、アハハ」リリアは当然、本気で言ったわけではないが、冗談でも言わなければ精神状態を保てなかった。


「ハハ、ここで帰ったらジルおばさんに殺されちゃうよ」リュドミラは冷静なようだった。


「ねえ、リュドミラちゃんコンテスト出るの、何回目?」


「初めてだけど」


「えー!そうなの!? なんで今まで出なかったの? リュドミラちゃんなら毎年、クイーン候補でしょう?」


「だって20歳以上だもん。出場資格が。私、今年20歳になったばっかりだからねー」


「そゆことかぁ。でも、すごい落ち着いてるよね、リュドミラちゃん。私、立ってても感覚ないよ。自分の足じゃないみたいなんだけど」


「だって……」リュドミラはポッと顔を赤らめて言った。


「ディグ君がいるから。大観衆の前に立つって怖いけど、その中にディグ君がいると思ったら、ディグ君が見てくれてるんだって思うだけで、私、安心するの」


「そうですか……それはそれは結構なことで……」リリアは感情をなくした能面のような表情になった。


「リーリちゃんにもちゃーんといるじゃない?」


「え?」


「さっき見かけたよ、大応援団。横断幕なんか作っちゃって、私、羨ましいよー。あんなに応援してくれる人いないもん」


「ああ、あれね……」リリアはあのセンスのカケラもない横断幕を思い出して肩を落とした。しかし、同時に朝方、集まってくれた人々の顔が頭に浮かんだ。


──でも、あんなに熱心に応援してくれてる。横断幕つくる時間だって結構かかってるよね。センスは置いといて……みんな忙しいのに、私のために時間を割いてくれたんだよね。ありがたいなぁ。ごめんね、私、余裕なくて……みんな気持ちをちゃんと考えられなくて。がんばろう。私、多分いろいろダメなんだけど、一生懸命にだけはなれるから!


 リリアは急に胸の奥が温かくなるのを感じた。リュドミラの言うように、大観衆が怖くなくなった。


 勇者は人々の応援を受けて戦いに臨むもの。リリアはいつだって人々の笑顔に励まされて立ち上がった。絶望の淵を彷徨うときも。どれだけ自分が傷つこうと、誰かの悲しみが和らぐならばと立ち向かった。そして、奇跡を起こしたのだ。


 勇者としてこの世に生を受けたリリアは、人々の声援を力に変える才能を誰よりも持っていた。


「リュドミラちゃん、応援してくれる人がいるって、幸せなことだね」


「うん、そうだね、リーリちゃん」


 自分が置かれた状況を“幸せ”だと感じることができた瞬間、まさにそれこそが“幸せなひととき”なのだろう。そういう意味ではリリアとリュドミラは“幸せ”に包まれていた。


 そして、開会の花火が打ち上げられた。


 パーン。パン、パン。


 司会の大して意味は分からないが勢いだけはあるMCが聞こえてくる。


「オアシスクイーンコンテストへようこそ! 今年もスペクタクルにいっちゃおうぜ!Yeah!!  ぼっちゃんお嬢ちゃん、チルアウトしてる暇なんてねえぜ! アグレッシブな超絶ビューティが、度肝を抜くハードアクション! わくわくドキドキがノンストップに炸裂だ!!」


「いよいよ始まるんだね、リーリちゃん」リュドミラが目を輝かせた。


「うん、頑張ろうね!」リリアは拳を握りしめた。





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