第22話 どんぶらこと流れてきたのは。
街の人達が喚き叫びながら走って逃げる中、1人の老婆がお店の隅でうずくまっていました。
キャベツ太郎「…っ!?」
キヌ「どうした?」
人と鬼が入り乱れる大混乱の中、キャベツ太郎は懐かしい顔を見つけ、立ち止まりました。
老婆も辺りをきょろきょろと見渡した際に、じっとこちらを見つめる青年に気が付きました。
お婆さん「お前…まさか…!まさか!…キャベツ太郎かい!?」
キャベツ太郎「…っ!」
懐かしい顔、懐かしい声、愛情いっぱいに育ててくれたお婆さんの顔を見て、キャベツ太郎は少し涙が溢れそうになりました。
けれど…。キャベツ太郎は鬼と共に戦う身。
どう説明しようか…どこから話せばいいのか…。
お婆さん「キャベツ太郎…あぁ…キャベツ太郎だ…!こんなに大きくなって…こんなに立派になって…!でも…一体これは…」
その時、駆け寄ろうとしたお婆さんの背中に別の鬼が斬りかかろうとしました。
キヌ「あっ…!やめろ!」
…キヌが言い終える前に振り下ろされる凶刃。
ザシュッ…―!
鈍い水音と肉が裂ける音…。
キャベツ太郎は考えるよりも先に体が動き、とっさにお婆さんを庇っていました。
お婆さん「ひっ…そんな!なんて事…!キャベツ太郎!」
勢い良く飛び散る血飛沫。
ガクッと力無く崩れ落ちるキャベツ太郎をキヌとお婆さんは必死に支えました。
キャベツ太郎「おば…ぁさん…。怪我は…な…ぃ…か?」
お婆さん「大丈夫…だよ!お前が…助けてくれたから…!でも、お前が大怪我をしてしまって…うぅ…」
肩口から腰までザックリと斬られたキャベツ太郎は、口から大量の血を吐きながらキヌとお婆さんを見つめました。
キャベツ太郎「おばぁ…さん…が…無事で…よかっ…。キヌ…さ…ごめ…。ぁり…がと…」
キャベツ太郎は最後に力を振り絞って声を出し、泣きそうな笑顔でそのまま息絶えてしまいました。
キヌ「おい…嘘だろ…まだ…アタシらは始まったばかりだ!楽しい事も辛い事もまだ何もしてないだろ!起きろ!起きろよ…なぁ…!なぁ…?」
キヌとお婆さんが何度も何度もキャベツ太郎に声を掛けますが、冷たくなっていく体が現実を突き付けます。
ピカッ…ゴロゴロゴロッ!!
…ザァアアア…―――
悲しみも怒りも、憎しみも虚しさも…。
全てを溶かす様に雨が降り始めました。
…鬼の侵略は完全に制圧とはいかなかったものの、帝との協定で一部の領地の中立という形で終結となりました。
………――――――
キャベツから生まれた赤子は
近い形をした「人間」からは疎まれ
別の土地で愛する「人」と出会い
人よりも鬼との共存を望み
愛する育ての親をその身で守って
…命を散らした。
これは神の悪戯だろうか?
…それは神のみぞ、知る。
どんぶらこ物語 ~流れてきたのは大きなキャベツでした~ タルトもどき @tartemodoki
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