5話 戦国ブランド
「吉継! 左近! 軽介! 助けてください!」
空腹より眠気の勝る昼休み。三成が僕らに助けを求めた。
……三成が助けを!?
「どうなさいました、三成様!?」
「敵襲ですか!?」
「誰をボコればいい? 福島か? 徳川か?」
そうだ。三成が助けを求める状況など誰かにイジメられたか敵襲以外あり得ん。平和な現代に敵襲なんてないが。
まァ、とりあえず福島か徳川をボコっておけばよかろう。
「そんなんじゃねーです! 今度の校外活動に着ていく服がないんですよ!」
「なに? 今の三成は着る服がないほどに貧しいのか?」
正継殿は何をやっている! 三成が倹約家なのを忘れたか!
「そうじゃなくてですね、その、服が多くて、決まらない、です……」
なるほど、そういう事なら大丈夫。正継殿もこの世で最も可愛らしい三成の魅力をわかっているではないか。
「であれば、渡辺殿はどうです? あの方なら三成様に似合った服を選ぶことができるのでは?」
そうだ。三成には渡辺殿がいる。戦国の時から三成の好みを熟知していた男だ。出会う時期については先を越されたとか思わんでもないが、三成にとってこれ以上ないほどの味方よな。
「そっちは相談済みです。勘兵衛ってばジジくさい服しか選ばないんです! 絶対にイヤですよ、僕は!」
渡辺殿……そうか。ジェネレーションギャップか……時の流れはむなしいな……
「あー……そうきましたか……」
「そんな訳で、今日は部活もないですし僕の家に来て欲しいのです。なんならお泊まり会でもします?」
三成は本当にあの頃から成長した。昔ならお泊まり会などするはずもなかったというのに!
「お泊まり!? 三成様の家に!? ぃやったーーーーーーっ! ひゃっほーーー!」
「まだ決まったわけじゃないですからね!?」
蘆野はもう泊まる気でいる。島殿も口には出さないが興奮気味だ。
僕がストッパーにならなければ……!
――
放課後、僕たちは勘兵衛の待っている駐車場に来た。昔の自分なら絶対にないお泊まり会だ。表には出さないが正直すごく楽しみ。
「お疲れ様です。お待ちしておりました、殿」
「ただいま戻りました。お迎えご苦労様です、勘兵衛」
「ありがとうございます。ですが当方、貴方様のために生きると決めていますのでこの程度、さして負担ではありません」
僕が言えたクチではないけど勘兵衛は昔から色々と硬いところがある。けれど、今はそういうところが子どもの僕にとってはとても頼りになる大人だと思っている。
少なくとも、いつも肝心なところでヘタレっている兄様より頼れる。
「ふふっ、相変わらずですね。うたはもう帰っていますか?」
「ええ、妹様は既に正澄様と」
うたは兄様と帰ったのか。もしかしたら買い物をして帰ってくるかも。あの二人の最近のマイブームは僕を着飾ることなのだ。余計に服が増えるし女物ばかりでちょっと困る。
「わかりました。そうだ勘兵衛、今日は学友を連れて帰ります。貴方も前世で出会っていますよ、吉継と左近、軽介です」
勘兵衛は驚いてくれるだろうか? 昔からほとんどの事に驚かず表情が変わる事が少なかったから、いろんな表情が見てみたい。
僕の唯一知る勘兵衛の驚いた顔は関ヶ原の時のことだったから、楽しい驚きで記憶を塗り替えたいというのもあるけど。
「ああ、彼らですね。それでは殿、大谷様、島殿に蘆野、こちらへ」
むぅ! また失敗した! この堅物め!
声をかけられた吉継たちがポカンと口を開けて固まっている。どうしたんだろう?
「あれ? どうしました? 行きますよ?」
「いや、いやいやいや、『行きますよ?』じゃないですよ三成様! 想像以上にお金持ちじゃないですか! 初めて見ましたよ! 黒塗りのリムジンで登下校する人!」
回復した左近が詰め寄ってくる。僕はまた何か変なことを言ったのだろうか? そもそも、佐和山で大名をしていた時の方が移動にお金がかかっていたはずだ。何を驚くことがある?
「……? 大友殿もリムジンで登下校していますよ?」
「それって大友宗麟殿ですよね!? あの人オオトモコーポレーションの御曹司じゃないですか!」
「いや、待てよ……もしや三成、おまえの親ってもしかして……」
「石田財閥ですね」
「やはりか、オオトモコーポレーションの御曹司と同じことができるのは財力的に大友より上の石田財閥だけだからなぁ」
なるほど、僕の実家を知らないから驚いたのか。結構そのまんまな企業名だからすぐに気づくと思っていたのに。
「正澄様は奥方様の後を継ぐ予定なので財閥の方は殿が後継ですね」
「マジですか」
「マジですね」
と言うか話が長い!
一体いつまで駐車場にいるつもりなのだろうか。早く帰らないと服選びの時間が減ってしまう!
「ちょっと〜行きましょうよ〜」
――
道中は特に何かが起こるわけでもなく、授業や課題の話をしているとすぐに家に着いた。
「つきましたよ」
「ありがとうございます、勘兵衛」
ドアを開けると女中たちが待っていてくれた。実は彼らも僕らと同じ転生者なのだ。基本的にかつての石田軍の者だけど中には小早川軍や明智軍の者などもいる。
『お帰りなさいませ、殿』
ちなみに、僕を「殿」と呼ぶのが石田軍の者だ。ちょっと恥ずかしいからやめてほしい気もする。
「ただいま戻りました。お前たち、彼らは僕の学友です。粗相のないように」
彼らも吉継たちも驚いている。そりゃあそうだ。だって昔の顔見知りがいるんだから。それに加えて軽介は前世での身分が低かったからかむず痒そうな顔だ。
「かしこまりました」
「では行きましょうか、ついて来てください」
――
「ここが僕の部屋です」
実を言うとこの家の間取りと部屋割りは佐和山城と同じなのだ。部屋に向かう途中で左近と吉継は気が付いていたけれど、広さは想定外だったらしく口をあんぐりと開けている。
「広っ!」
「お金持ちって感じの部屋っすね」
「三成様! 某、初めて本物のシャンデリアを見ました!」
それにしたって驚きすぎだ。シャンデリアに関してはもし、あの時代にあったら派手好きな秀吉様なら必ず部屋に飾るのに。
「ふふふ、驚きすぎですよ。あの時代にシャンデリアがあったら、かつての秀吉様ならこれぐらいしましたでしょう?」
「いや、そうだがな……」
むむ……! 納得していない……。でも、さっさと本題を終わらせて皆と遊びたい。
本当はこっちが本音。今まで一度も友達を家に誘ったことがなかったからマンガでよく見る「友達を家に……」というのに憧れていたのだ。
「さて、本題です。この中から校外活動に適した服を選ぶのを手伝ってほしいのです」
「この中ではって三成様! これ! 人気ブランド“戦華繚乱”の未発売のじゃないですか!」
左近がクローゼットの中の上着を取る。女の子っぽいデザインのものが多い中で数少ない男の子っぽいデザインのものだ。
「これですか? 母上が作ったものですね。来月発売なので興味があればぜひ」
「ヒョアッ! もしかして三成様のお母様、戦華繚乱の……」
「社長ですよ。ちなみに副社長は巴御前と呼ばれる方です。平家物語の木曽殿の場面で出てきた女武者です」
そう、母上と巴御前は学生時代に出会って意気投合した勢いでファッションブランドを立ち上げたらしい。それでここまで成長したのだから尊敬だ。
「三成ん家、すごいな……」
「えへへ、自慢の家族です! さあさあ、僕をコーディネートしてください!」
家族を褒められて悪い気はしない。もっともっと褒めて、もっともっと案を出してほしい。
この後、夜更かししたのは言うまでもない。
――
今回の初出人物
石田正継
三成のパパさん。
国内シェアトップの石田財閥の現当主。妻とはいつまでも新婚ラブラブな雰囲気で周りを振り回す。
渡辺勘兵衛
三成が当時の給料全額を出して雇った超すごい人。
転生しても三成の従者をしている。
石田家の執事長。
大友宗麟
九州のキリシタン大名。
大企業・オオトモコーポレーションの御曹司。
登下校はリムジン時々ベンツ。
巴御前
源義仲とラブな超強い女武者。詳しくは平家物語へGO。
ファッションブランド・戦華繚乱の副社長。
三成の母とは学生時代に出会って意気投合したらしい。
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