4話 お見舞い

 きっかけは何気ない一言だった。


「そういえば、左近から卒業生も含めると僕以外はすでにこの学校に来ていたと聞きましたが吉継は転校初日からずっと見かけていないのです。学部かクラスがちがうのでしょうか?」


 それとも、すでに卒業していますか? と聞こうとすると家康が答えた。


「……吉継……病院……入院……」


 瞬間、頭が真っ白になった。


 吉継が入院している。彼は前世で業病に苦しんでいたが、まさか、今世でも……?


「……は? 入院? 吉継が? ……まさか、転生しても業病が……?」

「安心しなよ佐吉。紀之介はねえ、病気じゃなくて怪我をしたんだよ」

 考えが声に出ていたらしく、秀吉様が追加情報をくださった。


「怪我、ですか……よかった……いや、よくないけど。業病でないなら安心です……」

 しかし、入院するほどの怪我とはただ事ではない。何があったのだろうか? 吉継は優しいから車に轢かれそうになった子どもかお年寄りを助けたのだろうか?


「あー、佐吉。君が考えてる事は大体予想がつくけど、そんなたいそうな事じゃないかんね」

 僕の考えている事がわかるなんて、さすがは秀吉様! ……じゃなかった。入院するほどの怪我は絶対たいそうな事だと思う。

「んー、それじゃさ、今日のESSの活動は吉継の見舞いにしようぜ! 佐吉は心配なんだろ?」


 確かに吉継のことは心配だが、一個人の私情で部活の内容を決めるとロクなことがない気がする……

「えっはっハイ。心配ですが、そんな、私情で活動を決めるだなんて……」


「だぁいじょーぶ、大丈夫! だってオレ、部長だし? 友達を心配して何も手に付かない会計係をほっとけないって」

 信長様はこう言うけど僕のことが放っておけないというよりもこの部活に会計が僕しかいないからだと思う。

「それって単に僕しか会計の仕事が出来る人がいないからじゃ……」

「ゴホン! とっともかくだ! 見舞いにいくぞ!」


 あっ! ごまかした!

 秀吉様にしろ信長様にしろ、僕に何か隠し事をしている人が多いのは気のせいだろうか……?



――



「ココが吉継の入院している……」

「そ。徳川総合病院だ」

 徳川総合病院には幼い頃に僕も来たことがある。ただ、この病院の名前、どこか既視感を感じるような……?


「徳川……? それじゃあ、この病院」

「……余の……ウチ……」

「なるほど、今世では医者の家系なんですね」

 たしか、家康は前世で薬学をかじっていたはずだから実家が病院でも納得だ。思っていたより大きいけど。


「ついたついた、この部屋だね」

 話をしている間に吉継の病室に着いた。

 入院したことがないからわからないけれど、ドラマなどで観る病室といった感じの病室だ。


「っ! 吉継! お久しぶりです! 会いたかった……!」

 およそ数百年ぶりの吉継に思わず少し大きな声を出してしまった。


「三成! あァ、僕も会いたかった。……おまえも前世を思い出したのだな……」

 吉継は顔を輝かせた後、ふと悲しげな表情をした。

 どうして?

 もしかして、僕に会いたくなかったの?

 まあ、そんな事はないだろうけど。吉継のことだ、恐らく僕は前世の記憶がないままの方が幸せだと思っていたのだろう。


「吉継……?」

「いや、なんでもない。それよりも、今日は何故ここに?」

 吉継が露骨に話題をそらす。ふむ、僕の見立ては間違っていないみたいだ。

 昔からそうだ。僕の周りの人たちは僕の考えが合っていると絶対に露骨に話題をそらそうとする。


「……三成……吉継……心配……」

「あァ、そういう。心配をかけてすまなかった、三成。僕は見ての通りいたって健康さ」

 それでも吉継が元気そうでよかった。親友に何かあったらとなると辛いからね。


「ええ、元気そうで安心しました。それにしても、なぜ怪我を?」

「それはな……」

 吉継が必要以上にタメる。これはもしや本当に大したことのない怪我だな?


「それは……?」

「……こけたのだ」


 拍子抜けした。

 転倒を侮ってはいけないとわかってはいるが、本当に秀吉様が言ったとおり僕の思っていたことよりショボかった。


「こけた……?」

「そう。廊下でこけて、壁で頭を打ってつい昨日まで気絶していてな。明日まで検査入院よ」


 理由はショボいけど症状はヤバい。転んで数日間意識がないってそうそうないんじゃない?


「それって、そこそこヤバいんじゃないですか?」

「いいや、僕にとっては日常さ。転生してから16年、ほとんど毎日何もないところで転んでいる。不幸体質、というヤツだ」


 吉継が病気をしていなくて安心だと思っていたけどそんなことなかった!ほぼ毎日こけ続けるとかヤバすぎる!ぼっ僕が面倒をみないと!?


「前言撤回! ぜんっぜん安心できねーです!」

「まァ、そういうわけだ。今世でもよろしくな、僕の親友殿?」


また、ごまかした!


「うぅ……また、ごまかされた……まあ、それはそれとして、よろしくお願いします、吉継」


 そうごまかしてばかりだと友達が減っていくよ? まあ僕はごまかさなくても友達が少なかったけど!




――



今回の初出人物


 大谷吉継

石田三成の親友で三成に「人望無いから総大将はやめとけ(意訳)」と言った人。

病気はしなくなった代わりによく何も無いところでこけるようになった。まさか三成がポジティブにネガティブしてるとは思っていない。

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