第9話 忘れ物

数日後。ホームルームが終わると、両隣がバタバタと仕度を終え、かけ足で部活へ向かった。来週の日曜日に練習試合があるらしく、2人の様子はいつもに増して緊張感を放っていた。

「あれ、優也の水筒かな」

あまりにも急いで仕度をしたせいで、優也が水筒を忘れたようだ。届けに行くか。

「山田〜部活行こうぜ〜」

尚希がいつも通りやってきた。

「うん、今行く〜」

帰るときでいっか。


部活が終わる頃には辺りはもう薄暗くなっていた。

「山田〜一緒に帰ろうぜ〜」

「ごめん尚希、ちょっと用事あるから先帰ってて〜」

「わかった〜じゃ、お先に〜」

尚希を見送ると私はグラウンドへ向かった。グラウンドのほうを見ると、暗く静かであった。もう部活終わって、みんな帰っちゃったのかな…

グラウンドに近づくと、ボールを蹴る音がする。人がいるとわかっただけで、何の根拠もないが、私は優也がまだ残っていることを確信した。

日が落ち、暗くなったグラウンドに、1つの電灯を灯し、優也は1人でシュート練習をしていた。

「水筒!!」

私がそう叫ぶと、優也は両手を合わせてそろそろとこちらに走ってきた。

「忘れてた…ありがと」

「喉乾かないの?」

「部活のときはここの水道で水飲むから」

「そうなんだ、あ、じゃあ私帰るね」

そう言って私が手を振ろうとすると、

「ちょっと待って、今片付けしてくるから」

と優也が言った。

「もう暗いのに女の子一人じゃ危ないでしょ?」

「私なんかを狙う人なんていないよ〜」

「俺が放っておけないの、だから待ってて」

「うん、わかった」

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