第2話 幼なじみの菜緒


デジタル時計が14時13分を示した頃、掃除機の音の裏に軽いピンポンの音が鳴った。ドアを開けると軽く息を荒げた菜緒が立っていた。急いで来たのだろうか。今日は前髪を結っていない。俺が自分の前髪を指差すと、菜緒ははっとしておでこを押さえた。そして手首につけていたピンク色のヘアゴムで素早く前髪を結んだ。さすが女子。

「おじゃましまーす」

菜緒は手を洗ってくるとすぐに、ばあちゃんの仏壇の前に座った。

肩までの四方八方にハネた髪が風に揺れる。

「あ、お菓子、ここに置いておくね。さっき買ったばっかだし、焼き菓子だから長く持つと思うよ」

「そんな丁寧にしなくてもいいのに」

「私も孫のように可愛がってもらったから。優也の家に来たときはいつもお世話になってたし」

ばあちゃんは、両親が忙しい俺の世話をしてくれた。じいちゃんは俺が生まれる前に死んじゃったらしいけど、ばあちゃんとはずっと一緒に暮らしていた。だから、昔からよく遊びに来ていた菜緒はばあちゃんのことをよく知っている。ばあちゃんが菜緒のことを孫のように可愛がっていたことも事実だ。でも、俺らが中3の時に突然倒れて逝ってしまった。

「ばあちゃんもきっと喜んでるよ。」

俺は一人言のつもりで呟いたが、菜緒はがばっと顔を上げて、

「そんなこと言わないでよ〜私、涙もろいんだから」

と言ってニカッと笑った。ばあちゃんの笑った顔に似てると思ったのは気のせいだろうか。

「あ、そうそう、ついでにうちらが食べる分のお菓子も買ってきたんだ〜」

「ちょっと待て、勉強しにきたんでしょ?これは後で」

菜緒は唇を尖らせると、そのまま手提げから数学のテキストを出してテーブルの上に広げた。

「よし、やるか。で、どこがわからないの?」

「えーっとね、ここ。まず解き方がピンと来ないんだよな〜」

「解説は?」

「読んだけど意味がわからんかった」

「お〜なるほど?公式使って解くってのはわかる?」

「わかる。公式に代入するaの値をどうやって出すのかわからない。」

「あ、そこ?そこから?」

菜緒はつまみ食いがバレた子供のように苦笑いをした。

「因数定理って覚えてる?2年のときにやったやつ」

「うん」

「それを使うとaの値が絞られて、条件からaは0以下だから、aの値が決まる」

「うん?うんうん、あ〜そっかそっか」

菜緒は自分の頭の中が整理出来ると、わかりやすく手をポンッと叩いた。

「えっと、次はね〜…」

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