第5話 戦う意味は

「前に...歩くことだけを考えるんだ…」


シートを連動させ、機体の足を動かす。


一歩、右足を前に進めることが出来た。


「行ける...この調子なら!」


左足も前に出した。もう一歩と、両足を交互に動かし、怪獣に向かって歩き出した。


敵もそれに合わせて、此方に向かってくる。


「うわ...どうすれば...?」


距離がかなり近い。攻撃は、殴ればいいのか?と、足を踏み込んで、腕を振り被ろうとしたとき、下のビルに脚がぶつかってしまった。


う、うわぁあ!と悲鳴を上げる。コックピットまで衝撃が伝わってくるし、自分の身体が地面に叩きつけられたように痛い。


恐怖のあまり目を瞑ってしまった。衝撃が収まり、再び開けた視界は暗闇だった。


「地面…転んじゃったのか…?」


起き上がろうとしたその時、一気に身体が浮き上がった。すぐに視野に入ったのは、今にも炎を吐き出そうとする怪獣だった。


「うわ、体が!どうしよう、動け!」


目の前に現れたのは、怪獣の顔。凶悪な形相で、鋭そうな牙がある。


頭を強く掴まれて、空中に浮き上がってしまい、四肢がブラブラと揺れる。


その状態のまま、大きく息を吸い上げる。口の辺りに、真っ赤な炎がたちこめていく。


「やばい…うわぁぁ!!!」


紅く光る煉獄の熱光線が、機体の頭部に命中した。その勢いのまま体制を崩し、後ろに倒れてしまった。


「く…痛い…!頭が割れそうだ…助け…て!」


機体の頭が、真っ赤に燃えてみにくい姿になっている。同時に激痛が走った。


しかし敵は進撃して来る。ズシン、ズシンと轟音を響かせ、その音を徐々に大きくしてくる。


「痛い、痛い痛い!でも、立たなきゃ!」


痛みと戦いながら、粉々になった建物から立ち上がる。だが、既に目の前に敵はいる。


「来る…!」


怪獣は片手を獄炎に染め上げ、思いっきり振りかぶって胸のあたりを殴りつけた。


「くっ、ぐわぁぁ!!!」


思いっきり吹っ飛ばされて、宙を舞った。

まだ怪獣が破壊していない所に突っ込んだため、ビルや建物は散々に破壊され、粉々になった。


「痛い、痛い痛い、痛い!」


激痛に僕は苦悶した。こんな窮地でも、敵は進行する。足音が、近ずいてくる。


「大体、どうして僕が戦わなくちゃいけないんだ…。いきなりこんな怪獣と戦えなんて、僕には無理だ!」


「そもそもあの人、は乗らなくてもいいって言っていたから、僕には乗る必要なんて無かったんだ。それに生きる意味がないならいっその事、みんなと一緒に死んでしまえばいいんだ。」


激痛が走る中、僕の中に諦念が渦巻く。

僕がこの世界で生きたくないなら、こんな辛い思いをしてまで救う理由があるのかと思った。


「もうこのまま、怪獣にやられてしまおう…

そうすれば、、こんな辛い思いを…しなくてもよくなるんだ…」


自分自身から、死をのぞんだその時、誰かの声が聞こえてくる。


掠れた声、ほんの小さな声、集団の人々の声。

頑張れ!負けるな!と言ったふうな声援が聞こえてくる。


「どうしてこんな時に、皆僕に助けを求めるんだ…」


首を稼動させ、周囲を見渡してみる。粉々に崩れさった建物によじ登り、手を振って叫んでいる。


なんで、僕が?こんなに期待されて、こんな運命をしなきゃダメなんだ…もう、嫌だ!」


僕はもう戦わないんだ。そう決めた。最期くらい、自分のすることは自分で決めたい。そう思った。

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