第2話 襲来
「うわぁぁぁ!」
人々は悲鳴を上げながら逃げ惑った。
人の波は、巨大な怪獣の姿が見える方と逆向きに流れている。だが、敵の動きは止まらない。
既に江東区、中央区あたりは壊滅だろう。
巨大な姿の付近だけ、建物が消滅している。吹き上げた炎は、燃えると言うよりも物体を瞬間に溶かしていった。建物や人間は、一瞬にして灰や瓦礫と化していく。
凄惨な光景が、徐々に近づいていているのが分かった。
ズシン、ズシンという地響きが、少しずつ大きくなってくる。
「悠希、大丈夫?電車とかはダメだろうから、走って逃げよう!」
流石の結衣も、口調が焦っている。もうこの辺りには、人が閑散としてきていた。
「うん、そうしよー…」
その時だった。頭の中に、波紋の信号が鳴動するかのような感触が走った。
誰かが、呼んでいる。僕の脳内に、直接呼び掛けているようなこの感じは、一体なんなんだ…。
「悠希、どうしたの?早く逃げようよ!」
信号は、どんどん強くなっていく。いや、自分の頭の中で反復しているんだ。
鈴のような水紋が、段々広がって、僕を呼んでいる。導いているんだ。
「ごめん、用事思い出したから先行ってて」
走り出しながらそう言った。
「悠希、どこ行くの?待って!」
咎める声は掠れて聞こえた。結衣には本当に申し訳ない。でも僕は、僕が今すべきことが分かる気がするんだ。
足が、勝手に動く、引き込まれているような感じ。こんなこと、初めてだ。
一人で、巨大な姿を目指して駆けた。ただ駆けた。
もうどれだけ走ったのだろうか。多分1キロ以上は走ったと思う。
けれども疲れを感じない。身体中を、未知のエネルギーが循環しているような感触だ。
そして近づいてきた。奴が通った瓦礫と灰の地帯に。
凄まじい足音が響いている。奴との距離も、数百メートル位しか無いだろう。
その時だった。地面が暗くなった。影に包まれたのである。
縦に長いビル群さえ、日光を遮られた。
そして僕は、我に返ったように駆けるのをやめ、体を左に傾けてみた。
あまりにもデカすぎる。言葉を失ってしまった。恐らく、500メートルはある。
語彙が浮かばない。もう、架空の映画に出てくる巨大な怪獣を、そのまま現代に持ってきた様だとしかいえないほどだ。
僕は一瞬、その巨体に恐怖した。
こちらからは違う方向に向かっている。多分、人口が多い東京の中心部を目指しているのだと思った。
だが、さっきよりも大きな信号が、脳内に響き渡る。近いんだ。この近くから、誰かが。
巨体とは逆の方に振り返ってみた。するとそこには、あからさまに不自然なエレベーターが、ビルの入口に見えた。
「これなのか…?」
僕は吸い込まれるように、扉に向かった。
近づくと、自動で扉が開く。
開いた扉の前で、僕は立ち止まった。なんだか、この先に進むともう戻れないような気がして、一気に不安が込み上げてきたからだ。
「でも、行ってみないとわからないか。」
右足を一歩、前に進めた。その調子で、左足も踏み入れた途端だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
エレベーターが急降下した。凄まじい速度で、身体が浮き上がってしまいそうだ。
ゴゴゴゴ、という轟音が鳴り響く、何も見えない真っ暗闇。そんな空間で僕は、恐怖と戦いながら、必死に床にしがみつこうとした。
しばらくして、エレベーターが急停止した。
今度は急停止で、身体に強烈な衝撃が加わった。体全体がギシギシと傷んでいる。
痛たた、と僕は床にうずくもった。
だけど、ここまで来たんだから行こう、と自分自信を激励し、踵を返して歩き始める。
扉が、開けっ放しだった。たしかに降り始める時、閉まっていなかった。
依然、暗闇は続いている。足元さえも良く見えない。コッコッコッと、足音を立てながら、何かないか探し始めようとしたとき、
バン、という電気が一斉に付きそうな音と共に、視界に閃光が走った。
「うわ、眩しい」と目を瞑ったが、やがて慣れて来たので、少しづつ目を開いていった。
「うわ、こ、これは…なんだ?巨大な、人?」
そこに有ったのは、巨大な人型の何かだった。
大きすぎて全貌が掴めないが、人の形は分かる。
全体的に白色で、腕や足、頭が見えた。
よく周りを見渡して見ると、それ以外には何もない。白色のタイルに包まれた、とても広い地下空間だった。
それに僕は近づこうと、更に歩みを進めていく。
「もしかして、これ、動くのかなー…」
「ああ、動くよ。そいつは、お前が動かすんだ。」
後ろから男の人の声が聞こえてきた。僕は振り返って、
「だ、誰?」と言った。
「私か?えぇと…まぁ、預言者といったところかな。人類の運命を伝え、託す者だ。そして君は、選ばれし者。この地球に住まう人々を救う、人類の救世主だよ。」
「僕が、救世主…?」
「そうさ。そして君が操るのは、この巨大な人型ロボット。人類最後の切り札にして、人類最後の希望。
決戦兵器-アルレシオン-だ。」
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