決戦兵器-アルレシオン-
haru1030
第1話 隕石が落ちた日
2022年6月25日-突如として宇宙の彼方から飛来した隕石は、太平洋小笠原諸島周辺に落下し、小規模の津波を引き起こした。
東京のビル群からでも煌めきながら降下する様子が見られ、人々の視線を釘付けにした。
ニュースでもネットでも、隕石落下についての話題が大量に飛び交い、日本全体が隕石への興味を沸き立たせていた。そんな梅雨明けのことだった。
夜中に輝きながら落ちてく隕石。僕もその姿をこの目で眺めていた。多分みんなと同じように、ただ美しいと思っていた。
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2022年6月26日
「はあ、どうせならここに落ちてくれれば良かったのに」
溜め息をつくように僕は言った。
「なんでまたそんな事言うの。ここに落ちたら、沢山の人が亡くなっちゃうじゃない。東京にもいい加減慣れたらどう?」
結衣が窘めるようにいった。
「無理だよこんな街。まず、人が多すぎるんだよ。あと、不親切だし怖いし…」
「そんなネガティブだから友達が出来ないんでしょ。もう悠希ったら、私が居ないとホントダメなんだから。」
「まあ、確かにそうだけど…」
僕と彼女の会話を遮るように、
「ねぇ委員長、このプリントって誰に出せばいいの?」
といったクラスメイトの声が教室に響く。
「あ、私が貰うからいいよ。」
と結衣はその子の所へかけていった。
「悠希、バイバイ。また明日ね!」
その調子で教室から出ていった。
結衣は人気者で大変だな、と思うとつくづく自分が情けなくなる。こんな僕をどうしてこんなに助けてくれるのだろうか。僕には分からない。
放課後、この室内には誰もいなくなる。窓からは、汗を流しながらスポーツに勤しむ運動部員の姿が見える。
でも声が多少聞こえる程度で、静かで一人の空間だった。
「もしここに隕石が落ちてくれたら、僕もみんな死んだのかな。」
そんなことをつぶやいた。こんな街、全部消えて欲しいと思った。都会は本当に嫌いだ。
学校にはいつまで経っても慣れないものだ。
もう引っ越してきて2年が経とうというのに、未だできた友達は結衣だけ。
クラスでも暗くて浮きがちな僕を助けてくれる結衣には、本当に感謝してもしきれない。
「…帰るか」
鞄を背負って、教室を後にした。
4階から階段をくだって下駄箱に向かう途中の事だった。一番下の段の階段に、見慣れた姿が見える。
「待ってたよ、悠希。」
「え、帰ったんじゃなかったの?」
「一緒に帰りたかったから待ってたの。一人で帰るのは寂しいし。」
「あぁ、なんかありがとう。」
毎度、感謝の気持ちしかない。一人で帰るのは色々辛いし、誰かと話して帰りたいと思っていた。
「他の女子はどうしたの?」
「部活だよ。もうすぐ夏の大会だから、忙しいみたいだね。」
「じゃ、帰ろうか。」
そう言って、校舎を後にし、校門をくぐり抜けた。
帰り道、昨日の隕石の話や学校についての話をしながら帰った。
また、変わりない一日が終わりそうだ。
この街も、変わらず喧騒と雑踏でごった返している。
ふと、上を向いて空を眺めてみた。
それにしても、空が狭い。ビル群の隙間から、青々が僅かに見える程度だ。
一瞬、僕は故郷の景色を思い出して、少しだけ懐かしい気持ちになった。
少し口角を上げながら、肩を並べて帰り道を歩いていく。
初夏、群青の空だった。
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早々とした足取りで、僕と結衣は歩いていった。かなり暑い。
まだ6月なのにこの暑さ、地球温暖化もいよいよ危ないなと、くだらないことを考えていた。
その時だった。僕たちの日常が、唐突に破壊されたのは。
突然、スマホの警報音が鳴り響く。周囲の電光掲示板も切り替わり、臨時のニュースが流れ出した。
その後凄まじい音量の警報が、遅れて流れてきた。
「なに、何が起こったの?まさか地震?」
周囲の人々も騒然とし出した。
「何が起こったんだろう?」
僕はスマホを取り出しながら言った。
「地震か、事件かなんかじゃない?それよりも、避難した方が良さそうかな。」
結衣は落ち着いてそう言った。よく見てみると、東京都江東区に深刻な災害が発生した為、周囲の市民は速やかに避難するように、との事だった。
「でも、逃げるってどこに逃げるの。何が起こっているのかも分からないのに。」
僕は不安げに尋ねる。すると結衣は、かなり昂った口調で、スマホの画面を見せてきた。
「これ見て!SNSに上げられてる画像なんだけど!めっちゃヤバくない?」
そこに映っていたのは、まるで映画に登場する巨大な怪獣だった。恐竜のようなふとましい体躯で、轟々と炎を吹いている。
「なにこれ、怪獣?デマじゃないの?」
「それは無いと思う。一斉に写真が上げられるなんて事ないだろうし…」
彼女が言い終わるや否や、地面が大きく振動し、大地が揺れるといった轟音が走った。
「うわぁぁぁ、何が起こった?」
人々は振動と轟音に恐怖しながら、悲鳴をあげる。動揺は凄い勢いで伝播し、瞬く間に混乱は広まった。
「避難した方がいいのかな、皆逃げてる見たいだし…」
「うん、早く逃げよう。出来るだけ東京の遠くがいいかも。」
こんな時でも結衣は冷静だ。彼女がついていることに安堵しながら、人の波に紛れて行こうとした。その時だった。
「なんだ…あれ…」
ここからでは、ほんの少し姿が見える程度だった。だが、奴はいた。
あまりにも巨大すぎる体躯、尾が長く、足が短い。全身茶色の風貌で、ビルをなぎ倒しながら歩いている。
そして何度も真っ赤な炎を吹き出して、次々に建物が融解していく情景が、目に映った。
奴が通ったと思われる所には、黒焦げになったビルの残骸と、紅の残火のみが残っている。
一体、何人が亡くなったのだろうか。検討も着かない。もう何万人も、いや何十万人もの人が灰と化したのかもしれない。
あんな生物、地球には存在しない筈だ。
いや、昨日落ちた隕石から、奴は現れたのだろう。
そう、怪獣が。
6月26日 4時14分 怪獣、襲来。
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