第3話 デート

 約束とは、人と人との信頼から成り立つ不確定なものである。


 例えば、ある男がデートに誘ったとする。


 日にちも決まっていて、あとはその日まで変わらない日常を過ごす。


 ただ、ここでアクシデントが発生したらどうだろう。


 例えば、天気予報。


 この地球という壮大なもので比較したら、豆粒にも満たない所で暮らしている俺たちは人間である。


 そこに存在している生物、哺乳類と呼ばれている人間であって、地球を創造した神ではない。


 誰かが言った、『神なんていない。神様がいるとすれば、物を想像し創造し続けている人間が神だ!』と。


 では、今の現状を見てみよう。


 俺の家で、俺の部屋で、俺たちの空間が作り上げられている。


 しかしこれは偶然の産物だった。


 もし俺たちがその神様であるならば、とんだ制約があったものだ。


 その神様人間は、超能力も無ければ、運もない。


 全ては自身の技量と努力でできることしかできない。


 未来予知や天候を操ることさえも、神様人間には当然できるわけがないのだ。


 デートの約束をしたこの日、雨が降ってしまった。


 傘をさしてショッピングにいくのも、濡れて嫌な思いをするだけだろう。


 だが何もしないのは論外というものだ。


 そこで導いた答えが、室内デート。


 後から大胆なことをしたと反省しているが、灯の家から近いこともあり提案した。


 最初は恥ずかしそうにしていたが、嬉しい気持ちもあったようなのでご招待。


 そして、今に至る。


「予定変更して正解だった〜。マジで大雨だね〜」


 傘をもってしても防げなかった大雨だったらしい。


 いたるところが濡れており、風呂に入れることも考えて提案してみたが、遠慮されてタオルだけ貸すだけに。


(でもな〜、絶対風邪引くだろ)


 今は両親が仕事でいないため二人きり。


 そんな時に、風呂に入るかと聞かれて入れるわけもないのは分かる。


「はっちゅ!」


 可愛いクシャミが部屋全体に響く。


(可愛い……な。とか言ってる場合じゃないよな)


「風引いたら流石にまずいし、さ……。風呂入ってこいって」

「うん……。そうすあくっちゅ! マジやばい」


 お風呂の場所を教えて、替えの着替えの用意して自分の部屋で待つ。


 少しソワソワしてしまう自分がいる。


(今……灯が俺んちのお風呂に……)


 背徳感が募る。


 想像してしまう。


(そうだ、別のことを考えよう。例えば、灯の裸! じゃねえ、都市伝説の本があったな。あれ読も)


 手に取ったのは、『好きな異性の人ともっと距離を縮める方法』と書かれた都市伝説の本。


「こんなもの買ったかな?」


 とりあえず開いて読んでみることにする。


 開けてみると作者の名前が先に載っている。


 しかし、本名ではなくどうやらペンネームのようだった。


 ペンネームは『恋愛マスター』。


(いろいろ信用できない名前だな……。マジでいつ買ったんだよこれ。恋愛マスターなら自分で名乗らないだろ尚更!)


 ただ、もっと距離を縮めたいという想いはある。


(彼氏になったはいいけど、何していいか手探りだからな〜。頼むぞ〜)


 ページをめくる。


『はじめまして、私こそ恋愛マスターこと恋愛マスターだ。今回は、恋愛で悩んでいるあなたに異性との距離がぐっと! ぐっ〜と絶対縮まる方法の都市伝説を教えよう。信じるか信じないかはあなた次第だ。検討を祈っている』


 やけに上から目線な物言いには若干腹が立つが、こっちは教えてもらう側なので苛立つ心を抑えて続きを読む。


『No1. 異性の胸の形を想像して三回揉む仕草をする』


(流石にそんなんしてるやついたら引くだろ!)


『No.2 私の好きな胸はGカップだ』


(てめえの胸の好みは聞いてねぇよ!)


『No.3 そんなに怒んなよ〜、血圧上がるよ〜?』


「やかましいわ! なんだよこの本、買う前の俺しっかりしろよ!」


 最初に書いてあったやつがまだまともだったが、だとしても絶対この本の内容は信じられないことだけは分かった。


 他にもいろいろ書いてあったような気がするが、内容を見て読む気がうせる。


 そこへ、ドアのかすかな音に反応して、すぐさま本を元に戻して何もなかった顔をする。


「お風呂貸してくれてありがと。マジ温まったよ。服も……ありがとう」

「あ、ああ」  


 服は俺のものを貸している。


「服はとりあえず、言ったように乾燥機に入れたか?」

「え!? う、うん……。ありがとう。乾いたら着替えて帰るから」


 さっきから様子がおかしい。


 いや、正確には俺も分かっているけど、反応しないようにしているだけだ。


 様子がおかしいのは、ブラがないからだろう。


 彼女がノーブラな件について、俺は意識せざるを得なかった。


 男性のさがなのか、あまり見ないように努力する。


 灯が隣に来る。


「ユウの服……。ユウの匂いだね」

「そ、そりゃ……な。俺の服だし」

「私……好きだな〜マジ。ユウの……優しい香り」


 耳元で囁く灯に、付き合っているのにも関わらずドキドキする自分がいる。


 家に誘ったのは、いつ以来だろうか。


 中学に入ってからは、全然こっちで遊ばなくなって。


 俺は、そのことについて触れてみることにした。


「中学に入ってから、こっちで遊ばなくなったよな。何でなんだ?」

「それは……。中学に入る前からずっと、ユウのことがマジで好きだったから……かな」


 それは、俺自身も知らないことだった。












































































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