第52話 進む先
その様子は遠く離れた場所からでも異常だと分かるだろう。
大きく膨れ上がる壮大な光の一方で天に広がる炎の渦。何者かが対立していることは見てすぐに分かる。そしてその2人が並外れた魔法師であることも。国の人間ならその一方が賢者であることはすぐに推測できるであろうが、その賢者に対抗できる魔法師がこの国にいることは知らない。そのため他国が攻めてきたのを賢者が撃退している所であると誰もが思っていた。
城でもその異変に気がついたものがいて、すぐさま増援に駆けつけようと準備を進めていた。それが、異世界から来たまだ幼い少女だとは知らずに。
「えぇぇぇいぃ!!!」
少女が自身の最後の力を振り絞り、出し魔法は今まで一度も使ったことのない圧縮砲であった。それは魔法の使い方として思いついていたものの、周りへの被害から使用することためらっていた。しかし、今ここでそんなことを気にす物はないし、理由もない。
不安はあったものの初めて使うそれが高威力であることだけはわかっていた。
「ふぉぉぉ!」
カエデの砲撃に合わせて賢者も、天に生成した炎の渦をその攻撃にぶつけた。膨大な魔力通しのぶつかり合いは今までよりも遥かに強い衝撃を当たりに撒き散らす。
体重の軽いカエデはそれにより吹き飛ばされてしまう。
「きゃぁっ!」
「カエデェ!!!」
ジオードとの戦闘を終えたブレンがカエデの方に走り寄ってくる。いつもならばそんな状況にあっても浮遊で楽に地上に降りることができるが、魔力が底を尽きているのと疲労と爆風の衝撃で一瞬意識が飛んでいたカエデは、自分が今どこにいるのかを認識できずにいた。
ギリギリで間に合ったブレンは少女が地面に叩きつけられる前に少女をキャッチすることができた。
「大丈夫か!?」
抱きかかえて軽すぎる少女の顔を覗き込むように確認する。
「ブレンさん……ありがとうございます」
「生きてたか」
それは嫌味ではなくブレンからこぼれ落ちた本音であった。虚ろな目でブレンを見ると今まで一度の見たことのない表情をしていた。
「賢者さんは!」
その温もりに浸ろうとしているさなかではあったものの、忘れてはいけないその存在のことを思い出す。
「大丈夫だ。あれを見ろ」
カエデを抱きかかえたままブレンが指差す方向を見ると、そこには前のめりに倒れ込む賢者の姿があった。それだけ見ると、とても一国を背負う魔法師には到底見えないものであった。
「そんで」
ブレンが賢者がいる別の方向を指差す。そこに見えるのはブレンが倒したであろうジオードの姿だった。こちらは意識はあるものの地面に倒れ悶えている。すぐにはこちらに危害が加えられる状況ではないことを察する。
「勝った……てことですか?」
「そういうことだな」
目の前の最大の脅威を排除することができた喜びよりも、安心の方が勝ったのか少女の全身から力が抜けていった。一気に自身の腕にかかる負担が増えたブレンであったが、それでも特に変わることは無かった。
「……ありがとうございます」
「なんでお前がありがとうなんだ? お前がやったことだぞ」
自身がジオードに勝てる自信は無かったが、どういうわけか少女が負ける未来は想像できなかった。ブレンからしてみれば勝たせてもらった感覚の方がはるかに強かったのだ。それにも関わらず、相変わらずな少女を見て笑顔がこぼれ出た。
まさに凄まじい戦いであった。
「だってブレンさんがいなかったらとても」
「そんな事はいい。さっさと行くぞ。こんだけ派手にやったら増援が来てもおかしくない」
もう少し、この場で勝利の余韻に浸りたいところではあったものの先を急ぐブレンであった。この場所は城からはそうは慣れていないところである。もし、また援軍がやってきたとしたらそれが一般兵であっても今の2人では到底かなわない強敵であるだろう。
「はい!」
後はここから離れるだけだと分かったら、どこからか力が湧いてきた少女であった。
それに、ブレンの話しぶりからこれからも一緒にいてくれることを推測して、喜びがあふれ出ている。お互いがこれほど頼もしいと感じる相手は今までおらず、まさに相棒と言うのにふさわしい間柄になった。
「ここから、南に下れば川がある。小舟ぐらいはあるだろうからそれで逃げよう」
そういって少女を抱えたまま立ち上がったブレンは、ゆっくりと少女を地面に下ろす。剣も使い物にならなくなって捨てたブレンは手ぶらであり、少女の魔装は解け二人はおそろいのボロボロのマントのみを羽織っているだけだ。
初めてあった時と同じく恐ろしく軽装な二人は、行くあてはないもののゆっくりと歩み始める。
次はカエデの願いを叶えるために。
「そういえばブレンさん」
「ん?」
「さっき私のことカエデって呼びました?」
「あ〜、ずっと嬢ちゃんわるいだろ」
「嬉しいです!」
魔法少女、異世界でも頑張ります! 伊豆クラゲ @izu-kurage
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