第49話 ブレンVSジオード

 双方が剣士と魔法士の2人組。それも、国家を代表するレベルの実力の持ち主同士がぶつかり合うなど国家間の戦争以外ではないことであろう。


「いきます」


 低い声ではあるが、それは戦闘を合図するものであった。ジオードが剣を構えるとその周りに炎が纏う。

 これが国家一の魔法剣士の全貌であった。


「カエデあいつは俺が何とかする。それまでなんとか耐えきれ!」


 馬から飛び降りるブレンがジオードと対峙する。ブレンは今のカエデでは賢者には勝てないと思っているようだ。それは単純な実力の話では無く、あまりにも今背負っているハンデが大きすぎるからだ。

 元々少女は異物退治として願いの力を行使していただけで、それは本来対人するものではなかった。それにも関わらず、人との連戦は少女を肉体的にも精神的にも極限まで追い詰める形となった。


「私は大丈夫です!」


 それでも大丈夫だと言う少女はもう一度魔装をまといブレンの邪魔をさせないように賢者を迎え撃つことを決意した。馬にまたがった状態から浮遊して、魔法弾を生成する。ここまで何度もやってきたこの工程は考えなくとも体が自然に動くものであった。


「無理するな!」


 カエデの方を見ずにブレンはそう怒鳴り声を上げる。少女の危うさや儚さを誰よりも傍で感じていたがために、再び会えたにも関わらずまたふらっと消えてしまうのではないかと不安を覚えているようだ。


「まだ間に合いますよ」


「なんのことだ?」


 ブレンの正面で大火をまといながら剣を握るジオードの顔は歪んでいた。

 ブレンもその言葉が何を指すか理解しつつも、その選択肢をとる選択は無いため知らないふりをする。


「私なら、賢者様に意見してそれを通せることができるということです。もう、一度自身の手から離れたあなたがを、あの人は許す気はない。ただ今ならまだ間に合うと」


「俺は誰のものにもなら無し、嬢ちゃんはなおさらだ。昔強かったからっていつまでも偉そうにすんな死にぞこないジジイって伝えておけ」


 大きく肩を落とし下を向く。その隙丸だしな様子を晒してもブレンがその間に切りかかってこないことを分かっていたからできる行動であった。


「できればあなたとは戦いたくはなかった……」


 それでも未だに未練を残している顔をするジオードだが決心はついたようだ。


「お前と俺との実力の差を見せてやるよ」


 その言葉がジオードに届ききる前にブレンは大きく前に跳躍し、頭の上で構えた剣を目の前の敵目がけて体の反動も使って力いっぱい振り下ろす。

 それを剣で受けるようなことはせずに少しだけ横によけると、その無防備になったブレンの脇腹目がけて剣を振う。すぐさまそれに反応したブレンは地面に叩きつけた剣をそのまま横払いに振ると、お互いの剣が鈍い音を出しながら重なり合った。

 二人の鋭い目が合う。

 それはものは違えど守るものがある者の信念を表している。

 ジオードが剣が交じり合った状態にも関わらず左手を剣から離し、その手の平で火の球を生成し始めた。それに気が付いたブレンは力づくで剣を押し返し後方へステップした。ジオードも態勢を崩しながらも火球をブレンめがけて放つ。剣でそれを叩ききろうと考えたブレンがもう一度剣を構え直し振り下ろすが。


「あっちぃっ!」


 それは、今までブレンが見てきたものとは比べ物にならないほどの質量と魔力であり、簡単に防げると思っていたものとは裏腹に直撃は免れたもののブレンに当たった。


「その辺の魔法士と一緒にはしないでください。私は魔法士としても一級品です」


 ブレンの前で初めて見せる、その魔法は幼少期から国を背負うために日々血のにじむような鍛錬を積んできた。魔法士としてくすぶっても、剣士として戦えるように両方を鍛え続けた魔法剣士はどちらでも国のトップの実力を有するほどになった。


「ちょっと油断してただけだ! 普通の人間から火花が出てきたら誰だって驚くだろうが!」


「私の魔法を火花扱いですか……!」


 一方で、己が今日を生きるためだけに日々剣を振い続けてきた者は、自己の本当の実力のことなど考えることなど一度もなかった。

 境遇も立場も違えど、その両者が積み上げてきたものは本物であった。

 その言葉に熱くなったジオードはブレンが体勢を崩しているのを見逃さず、自ら距離を詰める剣を振る。それを剣を振り回すように片手で払いのけるブレンは、自分がすぐさま折り返しで剣を振える状態でないことが分かると、右こぶしでジオードの顔を力いっぱい殴りつけた。


「ぐふっ!」


 紳士からは想像もできない鈍い声が聞こえるとともに、後ろに数歩後ずさりする。


「すまねぇーな。イケメンが台無しになって。でも、お前たち騎士には到底できない技だろう?」


 ブレンは大笑いしながらジオードの顔を見て笑う。鼻血を垂らすジオードはその痛む顔を押さえながらも目線でブレンを制している。まさに殺気を表しているものであったため、そのまま不用意に突っ込むこともブレンはしなかった。


「やっぱり一筋縄ではいきませんね」


「当たり前だろう。ここまで生きてきたんだからな」


 二人は目線を一切そらさずに剣を構え間合いを取る。騎士らしい正しい型に対して、自己流のブレンだが経験から成り立つそれは一切の隙が無いものであった。実力はほぼ互角である。だからこそ、永遠に勝負がつかないこともあれば、一太刀で終わることもある。

 しかしながら、カエデのことを気にかけている点でジオードの方が有利であることは間違いなかった。
















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