第47話 カエデの全力
恐らく次で決着が付くであろう。その場にいる誰しもがそう覚悟していた。しかしながら、長く続いた暗闇から見える小さな光を兵士たちは見逃さなかった。それは、城がある方角に見える小さな箱の存在であった。それは、城の中の人間なら誰しもが知っている賢者の移動手段である。
賢者が来る。
それは自らの失態を認めることにはなるものの、この場で命を落とす可能性を限りなく低くするものであった。
「放て!」
先に動きを見せたのは、兵士側の人間であった。後衛にいるグロリアが指揮をとり魔法士達が一度に火球を放つ。それは、一度目にカエデを倒した時と同じであった。
それを見てもブレンは微動だにしない。それを防ぐのはブレンの役割ではないからだ。もちろんそれを分かっていたカエデも、すぐさまブレンの前方に盾を張る。相手の火球が追尾しないことを先ほど見て知っていたカエデにとっては、直線上に飛んでくるだけの物体などカエデにとっては恐くもなんともなかった。
その二つは激しく衝突して再び大きな黒い煙を巻き上げる。
兵士たちはそれを待っていたかのように、今度は兵士長と一緒に剣を持った兵士たちが一気にブレンとの距離を詰める。さきほどと全く同じ動きであった。
しかし、二度も同じ手が通用するはずもなく、カエデは煙があがったと同時にその上空に待機させてあった、特大の魔法弾を発射させる。
「止まれぇぇぇ!!!」
それにいち早く気がついたグロリアが、これまでに見せてきたどの声よりも大きな叫び声を上げる。戦闘を走る兵士長はそれを正しく頭で理解する前に本能的に歩みを止めた。
すると、ブレンと兵士たちの間にクレーターができる程度の魔法の跡が地面に残り、黒煙はその衝撃により消え去っていった。もしも、そのまま歩みを止めないでいたら、その兵士たちはひとたまりもなかったであろう。
「嬢ちゃんずいぶんと大胆になったな」
ブレンが苦笑いを浮かべながら後ろを振り向く。それは、ブレンが知っている少女よりもさらに、たくましさを増した。
大胆なその行動は、兵士たちの進む足をさらに重くするものであった。
「またブレンさらに捨てられないようにと思って」
「バカが」
少女は小さく微笑みながら、ブレンに向かってそんな冗談を言う。ブレンも満更でもない様子だ。
この世界に来て1から築き上げた信頼関係は、少女がこの世界で生きていくための一番の武器となっていた。
「さっきも言っただろ? 俺の背中を預けられるのはお前以外いないって」
少女の覚悟は知っていた。たった一人で戦い続けることの辛さを知っているブレンにとっては、それがどれほど重いことかも。
直接少女が戦う理由、望みを聞いたことはなかったがそんなことは大したことではなかった。心優しい少女が不相応な力を願ってまで成し遂げたいことは、どんなことであれ肯定されるべきであると思ったから。
その代償も責任も背負っている少女に、とやかく言うことはなかった。
「安心して目の前の敵に集中してください。私がブレンさんの最大限を引き出せるだけの援護をしますから」
カエデは先程よりもさらに大きい、魔法弾のエネルギー帯を自信の頭上に生成する。数発撃つとエネルギーを使い切りそのもの自体が消滅してしまう、それは先程の数倍は残弾数がありそうなものであった。
「任せた」
もう一度剣を握るなおすブレンは、勝負を決めようしている。
それは、ブレンの目にも映った賢者達の姿であった。まだもう少し到着までかかる。すぐに蹴りをつければ逃げ切れる。
しかし、もし合流されてしまったらなかなかに面倒くさい状況になるであろう。それは、きっとあの箱に乗っているであろう青年を怪訝してのことだ。
一式の装備を貰った後に飛び出してきたことについては、特になにも思っていないがあの男と剣を交えるのは骨が折れる。
町にいたときに突如現れらその突出した実力の持ち主である魔法剣士は、実は城の魔法師お抱え騎士となれば納得の実力である。
そんな男と人数不利の状態での戦闘は、さすがのブレンも不安の種が残る。
「うおぉ!」
一気に勝負を決めに行くブレンは未だにうろたえたままの兵士長に切りかかる。それを剣で受けたものの勢いが殺しきれずそのまま吹き飛ばされる。
それを見た周りの兵士たちは、剣を振りきっており無防備な態勢のブレンに切りかかろうとするが、生成してあったカエデの魔法をがら空きな体にくらいその場に倒れる。
指示を出す兵士長が居なくなったことにより、半ば崩壊気味なところをブレンが大剣をぶん回しながら蹴散らしていく。それに合わせてカエデも浮遊した状態でブレンに付いていきながら、魔法で援護する。
これにより、白兵戦ができる兵士のほとんどは戦闘不能に陥った。
「これで……あらかたキリが付いたな……」
さすがのブレンも息を切らしながら剣を地面に突き刺してそれに両手でそれによりかかる。ここまで、馬に乗り走ってきてそのまま戦闘に突入しているのだから、疲労はだいぶ蓄積しているであろう。
その姿を見てカエデもいったん地面に足を下ろす。疲労がたまっているのはブレンだけでなくカエデも同じであった。ここまで、高出力の魔法を使うことは対異物戦でもほとんどなかった。魔法の貯蓄エネルギーが目に見えるものではないものの、それが少なくなっていることを体の感覚で掴み始めている。
「でも、あと少しですね」
カエデが、グロリアとその部下を見ながらつぶやく。
「ああ」
魔法士を守る兵士達はいない。すでにこの時点でほぼカエデ達の勝利は確約されている。この国の魔法士達は、その希少性故自身の身を守りながら魔法で戦うことはほぼできないと言っていいほど剣士たちに守られて生きてきた。
その点においては町の大した魔法も使えない、自称魔法士達の方が優れているかもしれない程だ。
基本戦術とは、どんなときにも一定の成果を出すことができるかもしれないが、それの一歩外に足を踏み出してしまったら、こうも無残に崩れ去っていくことを実践で兵士たちは学んだ。
「臆するな! 城の兵士として最後まで戦え!」
グロリアが、裏返りそうな声をなんとか抑えて宣言する。それを聞いた魔法士達も指示がないものの魔法を錬成し始める。
それは、グロリアが一番初めにそれを始めたからである。それを見て魔法士達も後に続いた。本来優秀な魔法士であるはずのグロリアも守りてのいない丸裸同様な状態をあせったのか、中途半端な炎の渦のようなものを錬成してブレンめがけて放出した。
しかし、それが大したものでないことをブレンは一瞬で見抜き、剣を軽く横ふりするだけでそれを相殺する。
「なんだお前? なめてんのか?」
あまりにも、お粗末な魔法を見てブレンが口を開くが、それに続き、後方の魔法士達が一斉に火球やら、火の魔法を放射する。
「うぉっ」
さすがにそれを全部受け切ることはできないブレンが数歩バックステップしてカエデの真横まで下がってきた。
「大丈夫ですよ」
カエデ前を向いた状態で横に来たブレンに語りかけ、二人の周りにバリアを生成する。
「おお、熱くもないんだな」
そのバリアに相手の魔法がぶつかって消滅するが、熱の一切すら感じないものであった。
カエデは真顔のまま、相手の攻撃を防ぎつつ上空に待機させていた高エネルギー弾で魔法士達を追撃する。防御魔法が使えずその他に相手の攻撃を防ぐ手段を持たない魔法たちはなすすべなく、その攻撃を身で受けることになった。
それにより、ブレンが手を出すまでもなく魔法士部隊もほぼ壊滅した。
「ここまでだな……」
剣をおろし無防備な状態で、ブレンは地面に倒れこむ兵士たちを眺めて言う。カエデも自身がおこなったその惨状を険しい表情で眺める。
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