第46話 最強コンビ
「二人だからと言って決して油断はするな! この剣士も相当な実力の持ち主だぞ!」
兵士長が後ろに控える部下たちを鼓舞する。それにともない、先ほどどうようにグロリアは後衛に下がり、前衛は盾を持った兵士と長物を持った兵士で固める。対魔法士をあまり想定されていないその陣形は、範囲高火力魔法を使えないカエデに対しても弱いものである。それに加えて突破力のあるブレンが合わされば、なおさらのことだ。
「ブレンさんいつでも合わせますよ!」
「おう! もう言葉はいらねーな!」
俺に合わせることは当然だと言わんばかりに後ろも振り返らずに、いうブレンの顔も勇ましくはあれどどこか嬉しそうであった。
「はい! ただ一つだけいいですか?」
「なんだ!」
今か今かと戦闘への距離感を図っているときに、唐突に足踏みをさせられる。
「本当にいいんですか? せっかく夢が叶ったのに」
それは、少女にとって何よりも大事なことであった。
救い出してくれたことは嬉しいし、なによりもこの場にいてくれることが嬉しかった。しかし、この世界の住人でない自分とこの世界の住人であるブレンでは、この一つの出来事への価値は大きく異なる。それは文字通り一生を左右することであるし、生き方を選ぶことすら今後できなくなることであった。
「そんなことか。いいんだよ。嬢ちゃんと離れた後にジオードから聞いたよ。あのジジイが何を企んでいるかをね。だから俺はこっちに来た。紛れもない俺の意志だ!」
いちいちそんなことを気にして。そう思う反面、その優しい少女こそがこれまで一緒に戦ってきた心優しい少女であり、自身の人生を投げうっても力になりたいと思った人物であった。
「分かりました。それじゃあ私も全力を尽くします!」
層所は今まで感じたことのないほどの力が自身の体から溢れてくるような感覚に陥る。
「おう! 俺がこっちに来たことを後悔させないようにしてくれよな!」
そう言い切ると同時にブレンは前方にダッシュする。カエデ達魔法士とは違い剣士は剣を振って敵に当たる位置まで近づかなければならない。
そこで一番重要になるのが瞬発力だ。しかし、今まで鎧などつけておらず、軽装であったのに対して今はその重し分のスピードが落ちている。これが異物との戦いであったらそのスピードの遅さは命取りになっていただろう。しかし、これは対人戦であり、集団戦である。
「やあぁぁぁ!」
少女特有の甲高い声とともに発射される、魔法弾はあえて速度を遅くして、敵の意識を惹きつける。それにより、ブレンの間合いに入る前に攻撃されることを防ぐ。勢いそのまま剣を大きく縦ぶりすると、その正面にいた盾を担ぐ兵士をそのまま叩き潰した。そのまま勢い殺さずに空いた隙間から、今度は剣を横ぶりするとそのまま数名が横に押しつぶされる。
たった、ワンアクションで前線の陣形を半壊させた。
「よっと」
ブレンが距離を測るために一歩後ろへと下がると、そこ目がけて数多の火球が前方に飛んでくる。それを察知してすぐさまブレンは自身への直撃だけは避けるため、剣を正面に構えて迎撃する準備をする。しかし、そんな必要は一切なくそれを全て向かい打つかのように、少女は生成した魔法弾をぶつける。
たった一つだけ撃ち漏らしてしまった火球をブレンが剣で叩ききった。
この一連の戦闘だけで国の一個中隊の連携力をカエデとブレンのたった二人の戦闘能力で上回っていることが分かってしまった。
「クッ! 予想はしていたがここまでとは……!」
兵士長は倒れ込む部下たちを見て、圧倒的差を目の当たりにした。想像と実際に目にするのでは全く違うが、それでもそれは想像を超えるものであった。
「臆するな!」
その様子を後ろから見ていたグロリアは、寸での所で精神の崩壊までは防ごうとする。魔法連隊の火球を全て撃ち落とされたことにはそこまで驚くことではなかったため、後衛の精神的ダメージはそこまで大きくはなかったようだ。
「お前達まだやるのか? もう俺たちに敵わないことは分かっただろうに」
剣を肩に担ぎひと段落と言わんばかりのその態度は、すでに勝者の風格であった。カエデはというと、先ほど一瞬の油断で逆転されてしまったため警戒を怠らず浮遊をした状態であった。
「私が出る!」
兵士長はこの状況を見て、自ら剣を手にブレンの正面に立った。カエデとは直接剣を交えていたものの、部隊が到着してからは指揮に回っていた。しかし、この負け雰囲気を払拭するために自らが行動で兵士たちを鼓舞しようと試みた。
「おお! いいね~!」
その男が何者か分かっていないブレンは、自身の戦いを見てもなお前に立つその男を純粋に賞賛している。
「それだけの実力を持っていながらも、なぜ国のために戦おうとしない!」
それは、その男からすれば一番にくる疑問であった。実際はどうであれ、男は国のためを思って働いてきたのだ。力あるものはそれを遂行する義務があると。本当に清い心一つでのし上がってきたのであろう。
「なんか、どっかでも言ったなこのセリフ。お前らが守っているのは国じゃなくて城の中の連中だけだろ?」
「そんなことはっ!」
「いくら話しても無駄だよ」
言葉が切れる前にブレンが切り込む。それを兵士長が受け止めて大きな金属音が鳴り響く。勢いは止まらず、その場でお互いの打ち返しが数度続く。ブレンは自身の背と同じくらいの体験を振っているため、剣に重さはあるもののかなり苦しそうではある。一方で一般的な長さの剣を振う兵士長は小回りで何とかブレンの攻撃を受け流しては、反撃を繰り返す。
先ほどのカエデとの戦いのときは、一方的に押されている印象であったのは慣れない魔法士との闘いであったためで、剣士としての実力は折り紙付きのようだ。
「オラッ!」
ブレンが大きく真横に大剣を振ると、さすがにそれは受け止めきれないと判断したのか兵士長は大きくバックステップして避けた。
「やるなぁ。オッサン」
「これでも部隊を率いる者だ。そんな簡単にやられるものか」
それは、半ば意地のようなものであった。
二人は肩で大きく息をしているものの、視線だけは相手から外していない。
五分五分であった戦いに見えても、その稼いだ時間の大きさは兵士側の方が多かった。カエデはなにがあってもいいよにと、すぐさま魔法弾を生成してそれを配置していたのに対して、相手側も動ける人間で陣形を立て直し、魔法部隊に十分な魔法錬成の時間を与えていた。
「次で切りをつけるぞ」
「はい!」
ブレンは、横目でカエデの方を向き合図をタイミングを合わせる合図をした。
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