第5話
真実
そこには。
風になびく金髪、それに水色に近い碧眼を持った、ホッドウ国民なら誰でも見知った、少女にも女性にも見える人物。
静まり返った広間に、ポツリと、一言だけが響いた。
「シーナ、様…?」
そう、その人物は、ホッドウ王国、守護神。
双神シーナ・ジェーナの片割れ、女神・シーナ、その人だったのだ。
「お姉様!!」
嬉しそうにシーナをそう呼ぶのは、ジェルドの傍にいる、カラメルだった。
その声を聞いて、ふっ、と、厳しかった表情を緩め、少しだけ微笑むシーナ。
だが、それも一瞬で元の厳しい表情に戻ると、口を開く。
「出てきなさい。」
すると、名前も呼ばれていないのに――正しくは、シーナには名前を呼ばれていないのに、だが――すっ、と前に出てきた者達がいた。
その者達は、先程ジェードに呼ばれたものばかりだった。
彼らは、状況を理解していないにも関わらず、己が前に出たことに疑問を抱いていた。
「シーナ……いや、まだシイアナ嬢、だな。」
「何でしょうか? ジェルド殿下。」
ざわり、と会場のあちこちから、ひそひそとささやく声が聞こえてくる。
「シーナ様が?」
「シイアナ嬢って、あの―――」
「そんな、嘘だろう?」
学園中のほぼ誰もが馬鹿にする、黒髪黒目の絶望的な容姿を持つ、シイアナ・アセロラ。
また、その冷酷な表情から、「無表情の死神」や、「氷の魔女」といった異名を持つ事でも知られている。
そんなシイアナが、女神シーナという事実に、ただただ、誰もが驚きを隠せていなかった。
「どうか待ってはくれないだろうか」
「ですが―――」
シイアナとジェルドの間でそんな会話がかわされる。
「神降流……?」
元の騒ぎの原因、アシュラは、驚きに目を見開きながら、そう呟いた。
「……戻ってきたな、アシュラ。」
その声に嬉しそうに口もとを少しほころばせ、ジェルドが言う。
その一言に食いつく貴族たち。
「神降流? あの、伝説の?」
「神降流、数百年に一度、ここ、チッカ国に神が降臨なさり、我らと交流するという名誉ある事だが………なくなったのではなかったのだな!!」
「戻ってきた?
あの黒い煙といい、何なのだ? これは。」
「神にあのような顔をさせるとは……前に出ていた者達は何をしたのやら…」
貴族から説明を求めるような声が上がり始めていた。
「……場所を変えましょうか。
…皆様、後日改めてご説明させていただきますので、ここで退場させていただきます。」
ジェルドが説得したらしいシイアナは、いつのまにか出口の方へ向かっており、一度広間にいるもの達に礼をすると、カラメル、ジェルド、アシュラと、広間を去った。
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