三十五話 一閃の斬撃

三十五話 一閃の斬撃



「魔獣!? これも、試験なのか……?」


 僕の目の前にいた三人の男。そのうち一人を圧倒し、残りの二人に手をかけようとしたその時に現れた八体の魔獣。


 一度はアリシアさんの矢によって全て撃ち抜かれたものの、その身体は肉片からすぐに再生してしまった。


 そして僕はそのカラクリを、知っている。


(錬金魔術か。アンジェさんがよく使っていた)


 錬金魔術に必要なのは、魔素を組み込んだ魔石と生み出すものへの具体的やイメージ。たとえそれによって生み出されたものが生き物であったとしても、それは″生きているように見せかけた″物質にすぎない。故にどれだけ傷をつけてもたちまち再生してしまう。


 そんな魔獣の倒し方は一つ。体内に存在する魔石の破壊だ。


 だけど……


(魔石の硬度は鉄よりも遥かに上。魔術の付与された魔剣ならともかく、ただの真剣で切れる訳がない……)


 つまりこの試験中においては、恐らくこの場にいる誰にもあの魔獣を本当の意味で倒すことは不可能。アリシアさんの矢を魔石そのものに打ち込めば可能性はあるかもしれないが、今すぐの実行は不可能だ。


「っ! くそ来るな! こんな化け物が出るなんて、聞いてねえぞッッ!!」


 考えている暇は無いようだった。さっきまで僕に切りかかってきていた二人が魔術に襲われ始めた。そして、僕も。一体の魔獣と視線が合い、威嚇と共に鋭利な牙がこちらを向いている。


「グルァァァァ!!!」


「やるしか、ないか……」


 敵味方関係なく全員に牙を向けるコイツらが暴れ回ることによって戦況がどう傾くかは分からないが、少なくともこちらはアリシアさんを止められた。逆に僕の相手はいなくなったが、同時に僕の目の前にも魔獣がいる。


 つまりは、コイツらを倒す実力が備わっている者が何人いるかで決まる。ここで僕が負けてしまっては意味がない。


(思い出せ。アンジェさんとした特訓は……対人間用だけじゃなかっただろ)


 一直線に、僕の体をめがけて魔獣が飛びかかる。


 右の前足を大きく上げ、爪先で身体を抉らんとする獰猛な一撃。当たればひとたまりもない。


「すっ────」


 呼吸、構え。タイミングを間違えば僕の身体は弾け飛ぶ。


 限界まで引きつけて、引きつけた上で。更に一歩深く踏み込んでから放つ。一撃でその巨体を両断する、一閃の斬撃を。


「────ハァッ!!」


 刹那。全力で振り抜いた真剣が右足を根本から切断し、腹部を横薙ぐ。体の最も太い部分である胴体を、僕の剣が二つに切り落としていた。


 確かな肉を切る感覚。しかしそこに血は混じっておらず、筋繊維と血管のようなものだけが、顕になった傷口には浮かび上がっていた。そしてもうそれらは既に繋がり合い、修復しようと動き始めている。


「グガ……グォオ……」


「っ……よし!」


 だけど、通用する。魔術無しの純粋な戦闘でも、戦える。


 もう僕は昔の僕じゃない。胸を張って、剣士としての証を振り抜ける。


 これでこのまま魔獣を倒し続けて、あわよくば旗のところまで行ければいいのだけど。


「そう、簡単にはいかないか。遠いな」


 旗に最も近いのは敵の剣士三人。それに加えて道のりの途中には魔獣が四体。あれを全て一人で捌きながらしかも三人を相手に、なんてのは流石に無理がある。



 必然的に、僕の向かう先は決まっていた。

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