三十六話 雷撃の拳
三十六話 雷撃の拳
「波帝拳•発撃!」
「クソッ、てめぇまた……!!」
魔獣の影に隠れる乱暴女。衝撃と共に弾け飛ぶ肉塊。それと同時に俺は死角から襲い掛かられ、蹴りの一撃を刃越しに喰らう。
俺とコイツの戦況は、段々と俺のペースになりつつあった。根暗女の身体強化術(のおかげと言うのは非常に納得いかないが)の継続により、俺は躍進した身体能力を獲得。確かにこの女を追い詰めていた。
だが、そこに魔獣の襲来。そこからは一転してこの女のペースだ。
いかんせん奴の姿が捉えられない。俺達二人の間に二体の魔獣が乱入した事でそれを利用し始め、ヒット&アウェイに徹し始めた。
ただでさえ俺は本気で剣を振ることが叶わない。剣先をモロに喰らわせれば簡単に殺してしまうこの状況で、なんとか発想をねじ込んで戦っていたのだ。元々なら奴の攻撃を躱すだけでよかったのに加え、魔獣二体の相手まで。本当に面倒だ。
「うざってぇな。隠れてないで出てこいよ、乱暴女」
「ふふん、環境は利用すべしってね。って、おわっ!?」
その瞬間。ミリアに盾として使われていた魔獣が牙を向ける。アイツらは別にどちらの味方でもない。ただ平等に襲ってくるだけなのだから、当然だが。
しかし当然、魔獣ごときにアイツが負けるわけもなく。俺からの盾として消耗しないよう最低限の部位を破壊し、再生させまた盾として使う。二体の魔獣でそれをされるから俺としては攻めにくいったらない。
「全く。とんでもない試験を用意したもんだね。そりゃ前四チーム全員脱落するわけだよ」
「はっ! お前も後を追うことになるけどなぁ!」
「それはどうかな。少なくとも君が私を倒せないうちはそうはならないと思うけどなぁ〜」
「うる、せぇっ!!」
一閃。生意気にも俺に盾突き馬鹿の一つ覚えで爪を向けるその右脚を、根本から切断。同時に残りの三本の脚を全て切り落としその巨体を足場にして跳躍する。
「コソコソできねぇよぉに、コイツら微塵切りにして引っ張り出してやるよ!!」
このままではいたちごっこの繰り返しだ。あの雑魚が三人相手にどこまで持つか分からない。早いところコイツをぶっ倒して、俺が一人で勝ちに────
「雷帝拳•雷イカヅチ!」
「うぐ、ッッあ!?」
刹那、俺の身体中を走る電撃。魔獣の銅に剣を振り下ろし、肉を切断する、その瞬間だった。焼け焦げる魔獣と、そこから感電し身体が麻痺していく。
「何、しやがった……!」
手先が、膝が。全身が痙攣している。立つこともできずに、俺は地面に伏した。
「奥の手は取っておくものだよ。この試合の初め、私が詠唱していたのが身体強化魔術のものだけじゃなかったってこと。雷撃魔術のも予め終わらせておいて、″溜め込んで″おいたの♪」
本来、魔術の詠唱とはその術の発動直前に行うものである。
何故なら詠唱の意味とは、身体の意識、集中能力をこれから使う魔術一点に収束させることによって術の安定性を上げるというものだからだ。溜め込むなんてことをすればその意味は時間が経つごとに薄れ、術そのものの威力も落ちていく。
だがこの女は、それを利用したのだ。身体強化魔術以外の魔術は無いと思わせる目的に加え、雷撃魔術を人に向けられる威力へと敢えて落とすために。
「チェックメイト。君とはもう少し戦っていたかったけど、私も勝たなきゃだから。あのお嬢様のところ乗り込んで自分で旗を奪うことにするよ」
「待ち、やがれ……逃げんのか、てめぇ……ッ!!」
「あはは、無理無理。電撃モロに食らったんだよ? しばらくは動けないって。それじゃ!」
手先に思ったように力が入らない。
ふざけるな。こんなたった一度の不意打ちで、なんで俺の身体は動かない。何のために、鍛錬を重ねている。″こういう時″に動けるようにじゃないのか。
「ク、ソがァァァ!!!」
まだ引かない全身の痺れ。意地で身体を震えがらせようとするが、なんとか動いたのは手先だけ。乱暴女はそんな俺の無様な姿を見て微笑むと、背を向ける。
「楽しかったよ、狂犬君っ♪」
そうして、勢いよく地面を踏み込んだ奴は走力を加速。俺達の守るべき旗へと、一直線に────
「待てよ。悪いけど、お前は行かせられない」
「んん? えー、嘘ぉ……空気読んでよ。悪いけど君程度じゃ私の相手にはなれないよ?」
「やってみなきゃ、分からないだろ」
「て、めぇ……」
向かう、はずだった。見上げた先でその進路を塞ぐアイツさえ、いなければ。
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