三十三話 見出した存在価値
三十三話 見出した存在価値
僕の身体は、三年前と構造的に大きな変化はない。
魔術を学び、修行した。でも僕は、超人的な身体能力を手に入れたわけではない。魔術を覚えたことで戦闘の幅は大きく広がったけれど、まだそれを人前で使う事はできないから。
今頼れるのは、純粋な剣士としての実力。あの空間の中でも僕は鍛錬を欠かす事はなかったけれど、それはヴェルドが来たあの日から。それ以前のブランクは、そう簡単に埋められるものではなかった。
「っ、くそっ……」
「はっ! オラァ!!」
三人に囲まれた僕は、防戦一方だった。
元々僕に石を投げつけていたような連中だ。多少剣で切り付けるくらいのことは何とも思ってないだろう。
容赦なく飛んでくる斬撃を、すんでのところで躱し捌く。防御に手一杯で、未だに攻撃の活路を見出せない。
「へへっ、所詮はこの程度だな。多少はやるみたいたいだが、三人で囲んじまえばこんなもんだ。昔みたいにまた虐めてやるよ!」
「うる、さいッ! やってみろよ!!」
その時、僕の視界に微かにレグルスの姿が映る。
魔闘士との一対一。この試験、圧倒的に男子は不利だというのに、互角どころかミリアさんを押してすらいるその姿に、僕は悔しさが漲った。
僕はこの先、彼をも超えなければならない。あの人の隣に立つために……こんなところで立ち止まってはいられない。
(落ち着け。よく見極めろ。コイツらの剣筋なんて……アンジェさんの操る剣に比べたら、屁でもないだろ!)
「ッ────ハァ!」
キィィィッ。激しい金属音が響く。僕に正面から切り掛かってきた男子の剣が弾け飛び、宙を舞った。
「ちっ、お前ら行け!!」
「……待てよ。まだ終わってないぞ!」
この三人には、明確な位置関係が存在する。
一人が上、残り二人が下。服従関係なんてものがあるわけではないが、下の二人は上の一人の号令での動き出しが多い。
思い出した。コイツらは僕と同じクラスにいた奴らだ。虐めの中でも特に陰湿な、見つからない虐めをしていた三人組。騎士を目指しているとは思えない、下劣な精神の持ち主達。
今僕が弾いた剣を使っていたのは、三人の中で最も上の主犯格。コイツに剣を拾いには行かせない。
「復讐、なんてつもりはないけど」
三度。詰め寄った僕はすぐに服の裾を掴み、引き寄せて顔を殴る。右手の拳を振り下ろし、地面に伏させる。
「負けるわけにはいかないんだ。だから……三人とも、僕が倒す」
アリシアさんは、炎の弓矢で敵を凌駕してみせた。レグルスはその自由で野蛮な剣でマリアさんを追い詰め、今にも倒そうとしている。ユイさんは付与魔術を使い、そんなレグルスを的確にサポート。
では、僕は。魔術も使えない、レグルスほど強くない。そんな中でどうやって結果を残せばいい。
簡単だ。残りの相手チームを一掃し、チームそのものを勝たせる。それこそが、僕の見出せる存在価値だ。
「ふざ、けんなッ! お前みたいなへっぴり腰野郎に、俺らが負けるかよ!」
「二人でかかれば瞬殺だゴラァ!!」
二人同時に切りかかかってくるのを待つのではなく、体を前に傾けた瞬間。僕がそれより先に動き、一人は肩を剣の柄で殴り、もう一人は膝に蹴りを入れる。
「っ!? くそっ、金魚の糞の分際で……ッ!」
「行かせない。終わりだ!」
順調だった。現時点で僕達に敗北の二文字は無く、唯一の不安分子であるミリアさんの押さえ込みにも成功している。
順調だった、はずなのに。
────そこに、突如として死神が舞い降りる。
「ふふっ、ふふふふふっ。もう無理我慢できない! もうちょっと見てたかったけど、いいよねっ!」
僕らの戦うフィールドの頭上に現れる人影。漆黒のマントを見に纏い、僕らを見下ろす彼女は一人……笑っていた。
「さあ、行っておいで。私の可愛い可愛い″魔獣ちゃん″達ッ!!」
宙に突如として出現したのは、八匹の魔獣。紫色の毛並みを包む獰猛な獣が、僕達に向けて降り注いだ。
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