第7話 ギルドあった
科学が発達した惑星に迷い込んで、汚れ仕事させられると思ったら、仕事する間もなく無職になってしまった。
「うわあああああああああああん」
衣食住の保証もなくなってしまったし、今夜はエルの家に泊めてもらうとして、明日からのことを考えなくちゃならない。
「うぇえああああああああああん」
「いつまで泣いてんだよ」
「うう……だってぇ……給料良かったのにぃ……仕事も楽だったのにぃいい……」
そういえば尋問の後、エルがバカなくせして高収入とか言っていた。そもそもこうなったのはこのバカのせいだし、バカとはいえ貯金くらいはあるだろう。地球に帰るまでとは言わない。せめて仕事を見つけるまでの間だけでも世話になろう。
そう企んだ俺は、できるだけ優しい言い方で。
「こうなっちゃったもんは仕方がないし、ずっとこうしていても仕方ないだろ? お前、所持金ある?」
「電子マネーなら……。ていうか、カケルは何でそんなに冷静なの?」
「俺は最初から一文無しだからな」
「うう……なんだろう。カケルが急に心強い。迷子のくせに」
迷子は余計だ。
「とにかく、先立つものがないことにはどうにもならない。住み込みか、日払いの仕事がないか調べてくれよ」
「ああ……今日から日雇い労働者かぁ……」
エルは袖で涙を拭うと、求人の検索を始めた。
ウィンドウ画面が忙しなく切り替わるのを横目に、つい、叶うはずもない妄想が口から溢れる。。
「……あーあ、ファンタジーだったら冒険者ギルドに行くところなんだけどなぁ」
「ギルドならあるよ」
「あんの!?」
エルがこくりと頷く。
ギルドが存在するだなんて、激アツな展開だ。ダンジョンを攻略すれば一攫千金も夢じゃない。借金だってすぐに返せる。なにより冒険っぽい!
期待に胸が躍る。
「それだよ! そういうのを待ってたんだ!!」
「でも地球のエンタメで流行ってるようなギルドとは違うよ? 依頼内容は迷い猫探しから危険な仕事まで様々だし、云わばフリーのなんでも屋。報酬も割に合わないのが殆どだし、仕事としては不安定だよ?」
期待に胸を躍らせている俺とは対照的に、エルは乗り気ではないようだ。
なんでも屋か。とはいえ、冒険者だってざっくり言えばそんなものだろう。
「行こう! 案内して!!」
「ええー! 僕、この荷物なんだけど!」
文句をたれるので荷物を代わりに抱えると、エルを急かしてギルドへ向かった。
***
ギルドと言えども着いてみれば想像していたものとは違い、建物は近未来的で、警備ドローンが空中を飛び交い、お掃除ロボットまでいる。
驚いたのは、今まで一度も見かけなかった女の人が、ギルドでは男女比が同じくらいの割合で存在していた。
「なーんだ、意外といるじゃん。女の人」
「ちょっと、僕は日雇いなんかやらないからね? そんな割に合わない仕事、この僕が勿体ない」
失業したくせに随分舐めたこと言いやがるが、今は後回しだ。
俺は早速受付へ向かうと、三つある窓口のなかで一番好みのお姉さんの窓口の列へ並んだ。
ドキドキしながら待つこと数分、ついに自分の番がやってきた。
「と、登録したいんですけど!」
__しまった! 今まで異性との交流がなかったせいか、緊張で声が裏返ってしまった。
お姉さんが困った顔をしている。
聞き取れなかったのだろうか、それともダサいと思われたか……。
すると、エルが横から割って入ってきた。
「すみません。この人、地球人だから日本語で合わせてもらえる?」
お姉さんはディスプレイ上で視線を泳がせたあと、今度は日本語で話し始めた。
「……ああ、そうでしたか。大変失礼致しました。これで通じますか?」
「日本語できるんですか?」
「まさか。PCの翻訳機能ですよ」
未来のパソコン、便利すぎる。
ということは、エルも翻訳機能を使っていたから普通に話せていたのか。
隣を見ると、いつの間にか居なくなっていて、反対側の窓口でちゃっかり登録手続きをしている。
日雇い労働は嫌なんじゃなかったのか。
「それで、ご用件は?」
「あ、ギルドに登録したいです。あと、今すぐにできる仕事も探していまして……ありますか?」
「名簿登録と案件の斡旋ですね。では先に名簿を作成致しますので、こちらのカメラを見て頂けますか?」
小さなレンズを見る。
お姉さんがディスプレイ画面に俺の顔が表示され、その横に赤文字が点滅されている。
どうやら顔をスキャンすれば個人情報が全てわかるようだ。
「……エラーですね。もしかして、まだ戸籍を取得されてないですか?」
「実はこっちに来たばっかりで、よくわかんないですけど」
「そうでしたか。ギルドの登録は問題ないのですが、身分を証明できるものがないとなると、今すぐご紹介できる案件がないんです」
「そんなぁ! なんとかならないですか?」
「こちらではどうにも……。時間はかかりますが、先に戸籍の申請をするか、他のパーティーに入れてもらうしか……」
どうしよう。いきなり躓いてしまった。
住所不特定者を入れてくれるパーティなんてすぐには見つからないだろうし。
「……えっと、そちらのお連れ様もご登録しますか?」
「僕? んー、まあ登録だけならいっか」
今度はエルにカメラを向けた。
エルの顔が表示されると、お姉さんは急に驚いた顔で立ち上がり、前のめりになってエルに。
「ブルフォード大学!? それにレッグビート社に就職していらっしゃったなんて!! これなら案件も選び放題ですよ!!」
「そうなの? ほとんど体力仕事じゃないの?」
「はい! 案件は体を張る仕事だけじゃないので。大手企業への長期ヘルプやコンサルティング依頼なんかもありますよ!」
お姉さんの驚嘆の声が響いたギルド内が騒めく。
「聞いたか? あのコ、ブルフォード大卒だってよ?」
「すげっ、超エリートじゃん」
あちこちで噂する声を聞きながら、俺は盛大な舌打ちをした。
宇宙でも学歴社会なのかよ。いやそれよりも、本当に頭良かったことの方が驚きだ。
だが、エルとはほんの僅かな付き合いだが、俺は知っている。
こいつは勉強ができても、その他はからっきしだってことを!!
「コンサルタントかぁ……まあ、悪くないかも」
歓迎ムードに気を良くしたのか、エルは満更でもない顔をしている。
流されやすい奴め。
しかし捨てる神あれば救う神あり。エルとパーティを組めば依頼を受けることができる。
「そんなに凄い奴だったなんて知らなかったよ。ブル……大学? すごく凄いし……本当に凄いじゃないか!! ぜひ、俺とパーティ組みましょう」
「ふん、僕の凄さがようやく分かったのか。……ったく、これだから底辺な地球人は。まあ、僕も鬼ではないし? 新しい仕事見つけるまでの繋ぎとしてならいいけど?」
適当に煽ててやると、思惑通り……というか、ビックリするくらい簡単に流された。
この調子なら暫くは利用できるだろう。
いつの間にか周りには人集りができていて、エルがチヤホヤされて浮かれている隙に、俺はこっそり受付のお姉さんに仕事を探してもらう。
「というわけで俺、あいつと組むので、今日のところはとりあえずサクッと稼げる仕事ないですか?」
「わかりました。でしたら、初心者にピッタリの案件がありますよ。討伐依頼ですが、危険はありません」
「討伐……! それにします!!」
討伐という言葉に惹かれて、俺は深く考えずに決めてしまった。
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