第6話 尋問
殺風景な部屋はさながら刑事ドラマに出てくる取調室のようだ。
少し違うのは、椅子に手足を拘束されていることと、二人共ヘルメットのようなものを目深に被らされ、視界が完全に遮断されていること。
耳にヘッドホンのようなものを付けられたから周りの音も聞こえない。もちろん、俺とエマが話すことはできない。
その状態で放置されているだけでも不安と恐怖で発狂しそうなのだが、しばらくするとヘッドホンから声が響いた。
『あ、あー……。二人共、聞こえているかね? 聞こえているなら返事をしなさい』
「……あ、はい」
返事をすると、ヘッドホンからも自分の声が響いた。
『そこの地球人には説明が必要だな。君が装着しているのは頭の中の声を読み取る装置。声に出さなくても思った事は全て我々が読み取れるようになっている』
なにそれ怖っ。
『心配には及ばない。我々は、貴様の邪念の方には興味がない』
クソ、この機械嫌いだ!!
『では星野翔。先に貴様に質問だ。貴様はどこの惑星の手先だ? なんの目的で侵入したのだ』
「違う! 俺はただ時空の歪みってやつに巻き込まれただけだ! スパイなんかじゃない!!」
『声に出さなくていい。……とはいえ、嘘ではないようだ。しかし、そのように訓練されているかもしれない』
「んなわけないだろ!! こっちだって地球に帰りたくて困ってんだぞ!!」
『うるさい。声を抑えろ』
んなこと言ったって難しいわ!!
こっちは隣にいる宇宙人のせいで、とんだとばっちりだ!!
だいたい、壁に爆弾仕掛けてあるなんて普通思わないだろ!!
爆発させたのだってそっちのバカだし、器物損害だって俺のせいじゃねーよ!
『わ、わかったわかった。憤りの数値が振り切れてるぞ。ストレスで免疫が下がると病気になりやすいって地球人は知ってるのか?』
やかましいわ!!
『ふむ、そうか。スパイの線は無いのはわかっている。そもそも、貴様へのスパイ容疑は線は薄い』
え、じゃあ容疑は晴れたのか?
『貴様ら地球人の知能では我々の惑星を侵略するなど不可能だ。束でかかってきても瞬殺できる。そもそも、月に行くのが精一杯なのにここまで来れるわけがないだろうププッ』
コイツら……!
こっちに来た時から感じてはいたが、心底地球人を舐めてやがる。
エマとしか話していなかったから、もしかしたら他の宇宙人は違うかも、と思っていたのに。
『というわけで、残すは器物損害の容疑だが……。良かったな、たった今そっちの容疑も晴れた。エマが器物損害の容疑を認めた』
意外とすんなり認めたな。
まあ、実際エマがやったんだから認めるしかないだろう。
俺に爆破装置の起爆なんて無理だし。
『貴様にもエマ監査官の証言を聞いてもらおう。では、音声をオンにする』
ヘッドホンからエマと尋問官の会話が聞こえてきた。
『ではテロや反逆行為ではないと?』
『そうなんです! 閉じ込められたから脱出するために吹っ飛ばしちゃっただけなんです!! だって、この変態と二人きりだなんて怖かったから!!』
この野郎、反省してねぇな。
ちゃっかり俺を変態扱いしやがった宇宙人がいるであろう方を睨む。
『真偽を審査します。体温、動悸、瞳孔__共に正常。……ふむ、ですが地球人とは違い、偽れる可能性も……』
どうやら化学を持ってしても疑いは晴れないらしい。
だが俺には科学技術なんて必要ない。
たとえ訓練したって、こいつに嘘は吐けないと断言しよう。
だって本当に馬鹿だから。
エマの必死の訴えは続く。
『本当なんです! そうでもしないと、犯されるところだったんだ! ……そう! これは正当防衛だ! だってそうでしょう!? この人、地球ではわいせつ罪の前科者なんだから!!』
この野郎ぉおおおおお!!!!
とんでもねぇ嘘吐きだ!!!!
『それは嘘ですね』
『すみません、ちょっと盛りました。……でも!! 本当に怖かったんだもの!!』
盛ったんじゃなくて完全に嘘だろうが。俺は強姦魔じゃない。
『恐怖で混乱していたのは本当のようですね。……ではエマと星野翔へのテロ及び反逆容疑については棄却し、無罪とする』
尋問官が告げると手足の拘束が解けたので、すぐに忌々しいヘルメットを脱いだ。
ああ、良かった。
無実だとしても疑われると、とんでもなく不安になる。
真偽を測定できるこの装置、嫌いだけどこいつのおかげなんじゃないか。
しかし、ほっとしたのも束の間だった。
『だが器物損害については有罪とし、あなた方二人には修繕費用を請求します』
一瞬、意味を飲み込むまでに時間を要した。
だがすぐに強く反論する。
「なんでだよ!! 俺は関係ないだろ!!」
『エマ監査官に交配を要求し、混乱に陥れたことは事実。保護対象が監査官を脅かすなど前代未聞だ。したがって、あなたも賠償金を支払ってもらおう』
「おかしいだろぉおおおおおおお!!!!!!」
絶叫した俺に、なぜか脳天気な顔をしているエマが肩に手を置いた。
「大丈夫! 僕は結構高収入なんだ。この会社に骨を埋めるつもりだし、毎月の給料から天引きしてもらえば、気がついた時には返済が終わってるさ!」
『エマは解雇処分とする』
「えっ……今なんて?」
余裕をぶっこいていたエマに、無慈悲な宣告が下された。
『解雇処分と言ったのだ』
現実を突きつけられたエマはようやく動揺を見せた。
「やだなぁ、高学歴勝ち組のこの僕が? 冗談キツイってー。……う、嘘でしょ?」
『クビだ!』
こうして俺たちは釈放された。
当然、エマは施設を解雇され、俺の衣食住の補償も無くなった。
警備員に出口まで連行される俺の後ろを、私物を入れた大きな段ボールを抱えたエマが泣きべそをかきながら付いてくる。
無職になった俺たちは、無慈悲にも外へ放り出された。
外はムカつくほど雲一つない晴天で、爽やかに小鳥達の囀りまで聞こえる。
俺の心境はというと、限りなく無に近かった。
悲しいとか腹が立つとか、考えられなかった。
これは一種の現実逃避だろうか。自我を保つための防衛本能なのだろう。
今は何も考えたくない。
地球へ帰るための金を貯めるどころか、借金まで抱えることになったのだから。
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