第5話 少子化問題
ひと通り吐いた後の俺を休ませてくれるでもなく、エルは惑星が抱える難題について話し始めた。
「我々の惑星では遺伝子操作技術が進み、ここに生息する生命体は両性具を所持する生命体へと進化した。己の意志ではどうにもならなかった性別を選べる時代になったのだ」
「へー。すごいじゃん」
まともに聞いていられない状態の俺は、適当な相槌を返す。頼むから今日は休ませて欲しい。
もちろんエルが、こちらに気遣いをしてくれる様子はなく、深刻な話は続く。
「ところが困ったことに、誰も女になりたがらない」
「女だって楽しそうだけど」
「そうかもしれないが、それ以上に一緒に生まれ育ってきたアナノコがなくなるなんてなんか嫌だ。一緒に苦楽を共にした片割れが去っていくようで寂しい」
しょうもなっ!!
そんな理由で絶滅の危機なんて情けない。
そういえば、外に出た時に子供の姿を見かけなかった。
まさか遺伝子操作の反動で生殖本能がなくなってしまうなんて、感情面が鈍いこいつらは考えもしなかったのだろう。化学が進歩しても、人間の感情をコントロールなんてできない。
自然の摂理を捻じ曲げたことへの代償とでも言うのだろうか。人類滅亡は天変地異だけではなく、こういう形でも起こり得るのか。無表情なエルが思い悩むほどだ。状況は深刻なのだろう。
「そこでお前の出番だ。お前の仕事は、奴らのアナノコを狩りまくって女を増やすのだ」
「それがさっきのアレか!? あんなグロいの触るなんて絶対嫌だ!!!!」
その言葉が、エルの逆鱗に触れたらしい。
「お前は何もわかってない!! 交配相手とアナノコを奪い合い、見事護り抜けば男、抜かれた方は女になる。まさに、交配は性別を決める意地と意地のぶつかり合い__世紀の戦なのだ。……性器だけにな!!」
「上手いこと言ったって顔すんな。お前らの星のことなんだから、お前らでやればいいだろ!? 地球人を巻き込むなよ!!」
正直、こいつらの星の問題を、無関係な地球人に、しかも普通の人間に押し付けるなんて間違っている。
解剖されるのも嫌だが、男のアソコを奪い合うなんて、それ以上に嫌だ!!
激昂する俺に対し、エルはニヒルな笑みを浮かべながら。
「地球に帰りたくはないのか?」
「うっ……」
「これは政府による極秘プロジェクトだ。無論、こっちの方も弾むぞ? 笑いが止まらないくらいにな?」
エルが片手で指先を合わせてシャカシャカするのを見て、つい言葉に詰まってしまった。
人の弱味につけ込むなんて卑怯な奴だ。でもだからって、地球から来た俺には関係ないことだ。そっちの問題はそっちでなんとかするのが道理だろう。
あと、ずっと上から目線なのがムカつく。
俺は腹の底から大きな声で叫んでやった。
「知るか!!」
すると、つい今まで余裕そうにしていたエルが、堪えきれずに溢れ出したとばかりにクシャリと顔を歪ませて、俺の胸ぐらに掴み掛かってきた。目には涙まで浮かべている。
「どうして!! どうしてよ!? こっちがこんなに頼んでるのに、どうしたら冷たく突き放すことができるわけ!? 地球人一人が消えたからって何!? 地球は今も平和に回ってるじゃん!! こっちは絶滅危惧種なんだよ!? 少しも可哀想だって思わないの!? お願いだから手伝ってよ!! プロジェクトが成功しないと大変なの!! お願いだよぉおおお!!!!」
それが人にものを頼む態度か。
情けない声で泣き喚くエルに冷ややかな視線を送る。
さっきまでの態度とは随分ギャップがある。多分こっちが素で、今までのは無理して取り繕っていたのだろう。
突き放したい衝動に駆られたが、不意に脳裏に悪知恵が過ぎった。
__でも、待てよ。
もしここで手を貸したら、救世主ということになるんじゃないか?
こいつらは頭がいいみたいだし、恩を売っておけば後々役に立つかもしれない。
俺は、取り繕った紳士的な笑みで。
「……それは、絶対に俺にしか出来ないことなのか?」
そう尋ねると、エルはパッと顔をあげて。
「そうだよ! アナノコがしっかりくっ付いている地球人は無双だからね!」
「働くからには報酬を貰うのは当然として、本来なら断ってもいい依頼を嫌々ながらも受けたんだから、別途謝礼を期待してもいいよな?」
「謝礼? うん、それは当然だよ! 手を貸してくれたんだから、請求する権利がある! でも例えばどんなの? お金?」
「彼女」
「……え?」
エルは、え、という顔してもう一度尋ねてきた。
「何? 彼女?」
「可愛くて優しくて俺のことを超好きで尽くしてくれて礼儀も常識もあるエロい彼女が欲しい!!!! だから、モテ薬作ってくれ」
息継ぎをせずに一気に要望を吐き出すと、エルはどこか哀れな目で。
「そっか……モテ薬はないけど、それに近しいものならなんとか。後で上に頼んでみるよ」
「おいおい、頼むだって? 確実に約束出来なきゃ、俺はやらないぜ?」
「うっ……抜かりないなぁ。 わかったよ。約束するよ」
「それから〝お前〟っていうのやめろ。俺にはちゃんと星野翔《ほしのかける》って名前があるんだからな」
「わかったよカケル!」
その返答に、俺はようやく首を縦に振った。
機嫌を直したエルはホッとした顔で話を進める。
「よく言ってくれた! それじゃあ、まずは__」
「その前に今の約束、書面でもらえる?」
「ホント抜かりないな!?」
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