第4話 旅立ち

 レムスは翌朝、荷物と箱庭を抱えて村長の家にやってきた。診断士の男は村長の家に泊まっているのだ。

「荷物はそれだな? この箱は?」

 箱庭を触ろうとする男から、隠すように持ち換えた。

「子どもの物を取り上げないよ」

「レムス!」

 家の中からルークと村長家族が出てくる。腰には小剣と水筒がくくられ、荷物袋が背負われていた。

「え? ルーク?」

「勝ち取ったぜ! 王都行き!」

「え?」

「天職が剣士だからって、小剣ももらったんだ! そんで、分けられる農地は受け取らなかった」

「受け取らなかったって……」

 ガシリとルークはレムスと肩を組む。声高に早口で言いつのった。

「上には兄貴が二人もいるんだ。下にもいるしな。だから、俺はお前について王都に行かせてもらうことにした。旅費もくれた。一方通行で、道を間違えたり、天候不順で長逗留したらそこまでだけどな」

「でもルーク」

「お前と二人なら王都でもやっていけるさ! そうだろ?」

「ルーク……」

 レムスの瞳が潤む。

「王宮の外に出れるとは限らないよ?」

「うおぉ……それは考えてなかった」

「でも、ありがと」

「おう」

「村長も、いいんですか?」

 村長は頷く。

「かわいい孫だ。手元に置いておきたいところもあるがな」

 大きくしわのよった手でルークの頭を撫でる。

「孫たち全員に畑を分け与えると、ひ孫の代には貧しくなる。剣士だから出ていくと言ってくれたルークに助けられた部分もあるのだよ」

「ルークのこと、お願いね」

「レムスも、気が向いたら村に来なさい」

[来なさいって言った]口の端が震える。

「はい。また、来ます」

 レムスは涙を堪えて別れの言葉を告げた。

「じゃ、行ってくるよ! 元気でな! 村の出入り口まで着いてくるんじゃねぇぞ」

 診断士に着いて二人は村から旅立った。



 朝に旅立って、昼。二人は汗だくになって、ずり落ちる荷物袋を背負い直し、水を飲んで休憩する。

「荷物を背負う徒歩の旅がこんなにキツいだなんて思わなかった」

「ハ……後悔してる?」

「後悔なんてしてたまるか! 俺は前途洋々の剣士だぜ!」

 威勢よく言い放つルークに診断士は通告する。

「剣士にしては体力が弱いな。生産職と同程度でどうする」

 うぐぅう。と呻き声を上げる。

「あの、その。仕方ないよ、ルーク。ルークはほら、ね? 家事とか家族で分担してたし」

「レムスぅ……」

「僕は、ほら。教会住まいだから、奉仕作業が一日の大半だったから」

「レムスうぅ」

「天職は剣士だけど、まだ剣も習ってないわけだし」

「とどめ刺してるぞ」

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新米役人、レムスの不思議な迷宮 夜山 楓 @gard1

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