第2話 レムスの天職
公園の一角には陣幕が張られ、その中で天職診断は行われていた。
男爵領の行政官と思われる男と、フードにローブの老若男女が定かでない一見不審者に見える人物。そして、男爵が円卓にいた。空席は一つだけだ。
「ヤク村のレムス。座りなさい」
行政官に促され、レムスは席に座る。
何かが湧いてきた。それとも、降ってきたのだろうか? いいや、漬け込まれているのだろうか。レムスは円卓に座っているのに、得体のしれないものの中にいるような気がした。
フードローブは衣に覆われた腕をレムスに差し出す。その先端には一枚の白い紙があった。
白い紙を受け取ると、朱に染まり、蒼に染まり……色とりどりに変化していく。
ほう。と誰かの吐息が漏れる。
紙には多様な色が混じった、全てを含む黒で文字が浮かんでいる。
『
レムスは陣幕を出て、呆然と佇んだ。
「レムス! 何だった? 俺、剣士!」
「私は裁縫師なのよ!」
「王宮に行くことになった」
三人は放心状態のレムスを凝視する。
「王宮だって?」
「明日には、行く、って」
レムスは声に出して、恐怖を覚えた。
「どうなってるの? 分かんない……」
じわり、と涙腺が緩む。村長の息子はレムスを覆うように抱きしめる。
「宿に戻ろう。いいね? 二人とも」
困惑するルークとミーシャに声をかければ、おずおずと頷いた。
抱き上げられたレムスは首に縋り付き、肩口に顔を伏せる。
「話は聞かせてもらえますね?」
少し離れた場所に、武装した男がレムスについてきていた。
宿のおかみさんに温かな柑橘水を貰い、ヤク村の四人と男爵に派遣された男は部屋に入る。
「ひとまず、ヤク村のみなさん天職の授受おめでとう。そちらのレムスはダンジョンメイカーという稀少な天職を得たので王宮所属となる」
「ダンジョンというと、モンスターの沸く?」
「天然のダンジョンとは違い、ダンジョンメイカーが作ったダンジョンは管理の行き届くダンジョンとなる。だから、国が管理するのだ」
「そう、ですか」
「ヤク村に一度戻り、荷物を持って王宮に向かう。護衛と旅費は男爵様がご用意なさっておられる。一度定着したダンジョンはしばらく放っておいても問題がないと聞くから、里帰りも可能だろう」
「詳しいのですね」
「私は診断士だからな。職業診断、相性診断、健康診断。なんでもござれ、だ」
「そのような天職があるのですね」
村長の息子はレムスを見る。
「王宮に行くとは思わなかったが、里帰りもできるそうだ。良かったな」
不安そうな子供たちを励まして、部屋に戻るよう促す。
「明日からはまた歩き詰め、しかも上りだからもっとキツいぞ! さ、早く寝た寝た!」
行きより辛い旅路に子供たちは顔を歪めた。
「そうか、上り坂か……誰か変わってくれないかな」
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