新米役人、レムスの不思議な迷宮
夜山 楓
第1話 10歳の天職診断
スカイホルム王国の東端、クリフ男爵領では秋の天職診断が開催されていた。
世界中で10歳になると神様より天職を賜る。スカイホルム王国ではそれぞれの領地の子供たちが領都に集められ、賜った天職を診断する国営事業だ。
王領では春。候・公爵領では夏、それ以下では秋となる。冬には高地に位置するスカイホルムでは遭難者が続出するので移動するものは緊急の伝令か大型の
領都クリフの広場には男爵領各地からやってきた10歳の子供や親が集っていた。良職についた子供を狙う商人や男爵、神官の姿もある。
レムスは男爵領でも北側。国境となるガゼル連峰の中腹にあるヤク村の出身で、羊や山羊、牛の放牧をしつつ細々とライ麦を育てる酪農家の次男だ。秋のこの時期は忙しく、子供たちは村長の息子に連れられてやってきた。
天職診断に来た子供たちに向けて解放された宿屋で丸洗いされると、旅中の砂埃で薄汚れた体や絡んだ髪もさらりと清潔になり、細くて柔らかな黒髪は光に当たって光沢を帯び、日に焼けた健康な肌は血色がよく、温厚な性格が
「レムスー! こっち来いよ! 剣が売ってる!」
騒いでいた見るからに活発な男の子は村長の孫で、10歳にしては筋肉に包まれた高身長のルークだ。明るい茶髪に緑の瞳。整った顔立ちは好奇心に輝いていた。
「来るのはお前だ!」
頭を軽く
「ここにいろ。じっとしていろ。そう言ったよな?」
「はい……」
「レムスとミーシャと固まって待ってろ。いいな?」
「はい……」
消沈するルークは広場の中心に向かう父親の背中を見送り、しばらくするとソワソワとしだす。
「ルーク」
「なんだよ」
「ミーシャが寝そう」
レムスの後ろ、花壇の前にあるベンチに座るミーシャはコクリコクリと船をこいでいた。
「ミーシャってさ」
「うん」
「大物だよな」
「う……んーと」
「何で診断前に寝れるわけ?」
「……疲れてたんだよ。女の子だもの」
「女だからって荷馬車に乗ってたじゃん」
「荷馬車でも疲れるよ。ほら、2日かかるし」
「ずっとしゃべってたぞ」
「えっと」
「歌ってたぞ」
「……その話題やめよ?」
「じゃあ、お前は寝れる?」
「まっさかぁ」
「大物じゃんか」
レムスは微笑むに止めた。
文字順に進む診断の儀式でヤク村は男爵領の最後だ。ルークの父がお目付役となり、少し出店を見て回る。しばらく寝ていたミーシャも
「わぁあ! かわいい! このリボンどう? 似合うかしら」
「さあ?」
「ミーシャは赤毛だし、赤いリボンは目立たないと思うよ」
「そっかぁ。ルーク、どれが似合うと思う?」
「さあ?」
「何も考えてないでしょう!」
「俺、剣が見たい」
「剣なんて見ても同じじゃない」
「違うに決まってんだろ!」
「そもそも、僕たちのお小遣いじゃ何も買えないからね。見ない方がいいと思うよ」
「「それはそうなんだけど」」
「色々見るのがいいのよ!」
「触ったりはしてないだろ!」
「僕は、欲しくなるから見たくない」
「領都の出店に来れるのも今だけだし」
「普段は出店なんてやってないんだぞ」
「普段は普通のお店でもっと品揃えのいい棚が並んだ商店に売ってるんじゃないかな」
「「それはそうなんだけど!」」
お目付け役が終わりを告げる。
「……そろそろヤク村が呼ばれそうだから、おしまいね」
「そんなぁ!」
「あたしのリボン」
「買えないからね」
「リボン……」
ぐずるミーシャを促す。
「帰り際にでも普通の商店で切り売りしてないか、見てみよっか」
「わかった……」
「レムスは何が見たいんだ? 終わってからもまた来るから聞いておこう」
村長の息子は穏やかに問いかける。職業次第では村に帰れないレムスが一番気がかりだった。
「領都!」
「壮大すぎる!」
「いいじゃあないか。石畳、二階建て、中庭、噴水! 村じゃあ見たことないものが溢れているんだよ!」
「家にだって庭はあるだろ? 広いのが」
「道との境界が曖昧な庭は中庭じゃないんだよ!」
「はいはい。もう行くよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます