第10話

 数十分後──どういう訳だが分からないが、殺伐とした雰囲気は落ち着いていき、女子たちは皆、笑顔で話し続けていた。


 一体何が起こった!? 何だか置いてけぼりにされた気分だけど……まぁ良いか。


「澤村君、お母様。本格的に寝ちゃったみたいだから、布団ある?」と、先輩は言って立ち上がる。俺は「ありますよ。取ってきます」と返事をして立ち上がった。


「じゃあ、私は食器を片付けるついでに、蒼汰のお母さんのお水を用意しとくね」と、杏は言って立ち上がり、「杏先輩、私も手伝います」と凛ちゃんも立ち上がる。


「じゃあ私は洗い物をするね」と、飛鳥さんが言って、空いた皿を手に取ると、杏は「じゃあ、私が台所まで案内するね」


 ──皆、テキパキと手伝いをしてくれている。俺はそんな風景をみて、誰を選んでも幸せになれる気がした。


 ※※※


 俺は布団を持ってきて母さんに掛ける。母さんは心なしか幸せそうな笑顔を浮かべている様に感じた。もしかして、俺と同じで誰になっても安心だと思ってくれたのかな?


「ねぇ、蒼汰。片付けは私がやるから、他の子たち送ってあげて」と、杏は台拭きでテーブルを拭きながら話しかけてくる。


「良いのか?」

「うん。これぐらいだったら、私でもどうにかなるよ」

「悪い、お願いします」

「うん」


 ──俺はそれぞれ声を掛け、外に出る。みんな電車で来たとの事だったので駅に向かった。


「──先輩、飛鳥さん、凛ちゃん。今日はありがとうございました」


 駅に着き俺がそう言うと、先輩は笑顔をみせ「こちらこそ、ありがとう。楽しかったよ」


「私も」と凛ちゃんが手をあげ、飛鳥さんはコクンと頷き「私も楽しかったです」


「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」と、女子たちは返事をして、俺に背中を向け、駅に向かって歩いていく──あ……そうだ!


「みんな」と俺が皆に声を掛けると、皆は足を止め、こちらを振り向く。


「どうしたの?」と先輩が不思議そうに首を傾げると、俺は「えっと……明日! 返事は明日するから」


 みんな一瞬、目を丸くして驚くが、直ぐに苦笑いを浮かべると、それぞれ返事をして駅の方へと歩いて行った──。


 もう時間がないから、勢いで明日なんて言ってしまったが……本当に大丈夫だろうか? 俺の心はまだ霧の様に不透明だった。


 ※※※


 家に帰り居間に行くと、杏はまだ残っていてくれて、ポツンと一人で畳の上に座っていた。


「お帰り、お疲れ様」と、杏はニコッと笑顔をみせ、立ち上がる──そんな杏を見つめながら俺が黙っていると、杏は首を傾げた。


「どうしたの?」

「あ、いや……なんでも。亜希のやつは、まだ下りてきてないの?」

「亜希ちゃんは蒼汰が居なくなった後、すぐに下りてきて手伝ってくれたけど、直ぐに蒼汰のお母さんを連れて行っちゃったよ。宿題がまだ残っているんだって」

「そう……」


 杏はゆっくり俺に近づき──向き合うように俺の前に立つ。


「ねぇ、蒼汰」

「なに?」

「今日の事だけど──みんな断るでもいい……だから、中途半端な事はしないでね?」


 杏はそう言って真剣な目で俺を見つめてくる。


 自分だけじゃなく、皆のためにも逃げないで欲しいと?


 ──そうか、そういう事か。いがみ合っていたのに急に仲良くなったのは、きっと、本音を言い合った中で、お互いの良いところを見つけ、認め合っていたって事なんだな。


 自分勝手な話だが、自分を好きになってくれた女子たちは、お互い仲良くして欲しいなぁ……なんて思っていたから、安心だ


 俺は真剣な杏の気持ちに応えるため、杏の手を取り「うん、約束する。明日、絶対に答えを出すから」と約束した。


「うん、分かった」


 俺は杏の返事と同時に手を離す。杏は何故か、落ち着かない様子で髪を撫で始めた──。


「今日も一緒に寝たい──けど、それじゃ卑怯になるから止めておくね」

「あ、あぁ……」


 杏は手を止め、ゆっくり歩き出す。俺の肩を人差し指でツンっと突くと「おやすみ、また明日ね」


「おやすみ、また明日」


 俺はそう返して、帰っていく杏を見送った──この日の夜、答えを決めた俺は一人一人に待ち合わせ場所をメールで送り、眠りについた。


──────────

後書き

──────────

次回 最終話!

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