第5話
杏と一晩過ごした日を境に、俺は少しずつ友達と言える人に転校の話を伝えていった。あとは飛鳥さん、早希先輩、凛ちゃんだけど……伝えた方が良いのかな?
学校に着き、俺は自分の席に座る。すると教室内がザワザワと急に騒がしくなった。何だ? と、教室のドアに目を向けると、そこには黒髪になっている飛鳥さんが立っていた。
一体、どうしたんだ? ──俺が呆けていると、飛鳥さんは俺に近づき席の前に立つ。
ピアスまで外している。先生に言われて外したのか? いや……それだったら、とっくにこの姿になっているはずだ。
「おはよう、蒼汰君」
「おはよう」
「いきなりだけど……今日の放課後、何か用事ある?」
「いや、特にないけど?」
「そう、良かった。じゃあ一緒に帰らない?」
飛鳥さんはそう言って、可愛らしく首を傾げる。
「うん、良いよ」
「やったー!」
飛鳥さんは嬉しそうにそう言うと、自分の席へと移動した。──心なしか明るくなってる?
それにしても、前から美人だとは思っていたけど、黒髪に戻しただけで、こうもガラッと印象が変わるとは……大人っぽい清楚な美人って感じで、とても良く似合っているな。
※※※
放課後。俺が校門で待っていると、飛鳥さんが笑顔で手を振りやってくる。やっぱり少し、明るくなっている。良い兆候だ。
「お待たせ~、行こ」
「うん」
俺達は通学路の並木道を並んで歩き始める──。
「飛鳥さん、黒髪にして印象がガラッと変わったね。どうしたの?」
「え!? い、いきなりそこ聞いちゃう?」
「あ……ダメだった?」
飛鳥さんは照れ臭そうに髪を撫で始め「いや、ダメじゃないけど……こ、心の準備がねぇ」
「心の準備? じゃあ、準備が出来たら教えて」
「う、うん。もう大丈夫」
飛鳥さんはそう言ったが、大きく深呼吸を始める。本当に大丈夫なのか? と思いつつ、見守る事にした。
「えっと……私達、あの日から更に仲良くなれたじゃない?」
「うん、そうだね」
飛鳥さんは後ろで手を組むと、「気が早い話だけど、もしかしたら、蒼汰君の家に遊びに行くことだってある──かもだし、そうなったら御両親に会う事だってあるかもしれないでしょ?」
「そうだね」
「そうなったら、あのままじゃマズイかな……なんて思って」
「あぁ……なるほどねぇ」
気持ちはすごく嬉しい……けど、俺はもうすぐ転校してしまう。俺の家に来ることを夢見て、イメチェンまでしてくれているのに、このまま黙っていて良いのか? いや、そんなのはダメだろ。じゃあ──。
「飛鳥さん、実は君に話してない事があるんだけど」
俺がそう切り出すと、飛鳥さんは表情を曇らせる。
「もしかして、転校のこと?」
「え……知ってたの?」
「うん、知ってた。だって同じクラスなんだから、嫌でも噂、聞こえてくるよ」
「はは……そっかぁ」
飛鳥さんは俯くと、ゆっくり足を止める。俺も足を止めると、飛鳥さんと向き合うように立った。
「行き成りこんなこと言われても困るだろうけど……」
飛鳥さんはそう言って顔を上げ、俺を見つめると、「あと少しだからこそ伝えたいことがあります。私……蒼汰君の事が好きです! 消しゴムを拾ってくれたあの時から、ずっとずっと大好きです! だから、お付き合いしてください!」と、精一杯の想いを伝えてくれた。
まさかこんな事になるなんて思いもしなかった……どうしよう。飛鳥さんは不安そうに俺を見ている。俺は──。
「ごめん。もう少し返事を待ってくれないかな? ゆっくり考える時間が欲しいんだ」
飛鳥さんは一瞬、俯くが直ぐに顔をあげ「分かった……そうだよね、行き成りだから考える時間が欲しいよね」
「うん」
「じゃあこの話は一旦、終了~!」
飛鳥さんは無理矢理に気持ちを上げるかのように、明るくそう言って歩き出す。そんな姿をみると胸がチクチク痛いけど……ごめん。杏のこともあるし、簡単には答えたくないんだ。
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