第4話
その日の夜。寝る準備をしようと思って階段を下りていると「あら、こんばんは。どうしたの?」と、玄関の方から母さんの声が聞こえてきた。
玄関の方に目を向けると、ピンクのパジャマを着た杏が立っていた。
「夜分遅くに、突然すみません。今日、泊まらせて頂けないでしょうか?」
「良いわよ、久しぶりね。いま蒼汰を呼ぶわね」と、母さんは言ってこちらを振り向く。
俺は近づきながら「俺ならここに居るよ」
「なんだ居たのか。布団は客間にあるから、好きにもっていきなさい」
「はーい」
母さんは俺に近づき横に並ぶとポンっと肩に手を乗せてくる。
「なんだよ?」
「責任を持てないなら、手を出すんじゃないわよ」と、意味深な事を言って笑顔を見せると奥の方へと歩き出した。
「そ、そんなことしねぇし!」
まったく、本人の前でそんなこと言うなよ……チラッと杏に視線を向けると、杏はバッチリ聞こえていたようで、苦笑いを浮かべていた。
それにしても……パジャマ姿って、ちょっとセクシー過ぎないか!? 大きくなった杏のパジャマ姿なんて見慣れてないから、ドキドキしちまう。
俺は杏に近づきながら「えっと……パジャマのまま歩くなんて、ちょっと無防備過ぎないか?」
杏は照れくさそうに髪を撫でながら「あ……やっぱりそう思う?」と、夕方の事は怒っていないのか、普通に話しかけてくれた。
「うん」
「そうか……いやね、さっきまで泊まりに来ようなんて思ってなかったんだけど、突然、思いついたら、早く行きたくなっちゃって……それで──」
「そ、そうか。とりあえず上がって、俺に部屋で待っていてくれ」
「うん」
杏は返事をして靴を脱ぎ始める。俺は杏を待たず、布団の準備をするため直ぐ二階へと向かって歩き出した。
あー……もう。何を思いついたのかは分からないが、とにかく早く来たいという気持ちがヒシヒシ伝わってきて、体が火照るぐらい照れ臭かった!
※※※
「明日は学校だから、もう寝るだろ?」と、俺は床に敷布団を敷きながら、俺のベッドに座っている杏に声を掛ける。
「うん」
「じゃあ、これが終わったら電気消すよ?」
「オーケー」
──俺は杏がベッドに入っていくのを確認すると、電気を消す。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
俺は布団に入ると、直ぐに目を閉じた──が、数分経っても眠れない! そうだよな……幼馴染とはいえ、女子が隣に居たら、そうそう眠れないよな……。
妙に静かだけど、杏はもう寝たのだろうか? 気になって視線をチラッと向けてみるが、暗くて良く分からなかった。
「ねぇ蒼汰……寝た?」
「いや、起きてるよ」
「良かった……ねぇ、小学校の頃さ、私が目の下にホクロがあること、男子にからかわれていた時期があったじゃない? 覚えてる?」
覚えてる。だけどそれはちょっと照れくさいエピソードがあるし、杏にとっては思い出したくない過去だろうから「えっと……どうだったかな?」と、覚えていないフリをする。
「えー……忘れちゃったの? 私はしっかり覚えているんだけどな。君が男の子に『分かってないな! 目の下にホクロがある方が、超セクシーで可愛いだろ!?』って言ってくれた事」
子供の頃だから、思ったことをそのまま口にしてしまっただけなんだけど、いま言われると汗がブワッ……と沸いてくるぐらい恥ずかしい!!! 思わず俺は、見えてはいないだろうけど、目を腕で隠した。
杏の方から布団が擦れる音が聞こえてくる。杏が俺の方に体を向けたのかもしれない。
「あの時は照れくさくて言えなかったけど……あの言葉、凄く嬉しかったよ。ありがとう」
「お、おぅ」
「──蒼汰」
「ん?」
「ごめんね。蒼汰の気持ちも考えずに、あんな事を言って」
転校の話かな? 俺は杏の方に体を向けると「うぅん。俺の方こそ、ずっと黙っていて、ごめん」と伝えた。
「うん、大丈夫」
──そこで会話が途切れる。俺が体を仰向けに戻そうとした時、杏が「ねぇ、蒼汰」と甘えたような優しい声で話しかけてくる。
「どうした?」
「こっち来て」
うおぉぉぉぉ……急にエロ展開きた!!! 良いのか!? いって良いのか!!? 俺がゴクリと固唾を飲んで躊躇っていると、杏の方からバサッと布団を持ち上げる音が聞こえる。
「寂しいから……」
「お、おぅ」
そう言われちゃ、仕方ないよな!? うん、仕方ない! 俺はそう自分に言い聞かせ、立ち上がる。杏と一緒の布団に入りながら「お邪魔します」と声を掛けた。
「ふふ……はい、どうぞ」
せ、狭い……昔はゆとりがあったけど、いまはお互い、色々と大きくなったから、体が密着してしまっている。
「──もう少し蒼汰が早く言ってくれたら、もっと早くこうしていたかったな」
「ごめん」
「私の我儘を口にしただけだから、謝らなくて大丈夫だよ」
杏の手が伸びてきて、俺の頬に優しく触れる。
「蒼汰。あなたが離れていってしまうのは寂しいけど、今も……そしてこれからもずっと好きだからね」
いきなりの告白にドキッと驚き、言葉を失う。も、もちろん、幼馴染や友達としてって意味だよな!?
「──心の準備が出来てからで良いから、いつか返事を聞かせてね」
違うのかい! あぁ……ヤバい。まさかチョー可愛い杏が告白してくるとは……とりあえず俺は「うん、分かった」と返事をする。
「──ところでさ。蒼汰、いつも抱き枕にしてるペンギンクッションは良いの?」
「あ、あれね……あれはペンギンクッションを助けるためについた嘘だったんだ」
「え、そうだったの?」
杏はそう言って、俺の肩をコツンっと優しく叩くと「こいつ……」
「あはは……」
「ふふふ……」
静かな部屋に二人だけの笑い声が響いてる。緊張して眠れないかな? なんて思っていたけど、何だか緊張の糸が解れて、リラックスして眠れそうだ。
「おやすみ、杏」
「おやすみ、蒼汰」
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