第6話
次の日の放課後。俺はバスケットがしたくて体育館に向かった──すると、早希先輩は休憩に入ったのか、白いハンドタオルで汗を拭きながら、体育館から出てきた。
「あら澤村君。またバスケをしに来たの?」
「はい」
「だったら、また入部すれば良いのに」
「それは──」
早希先輩は水道に向かい、髪を耳に掛けると、蛇口をひねってゴクゴクと水を飲み始める──飲み終わるとハンドタオルで口を拭い「そういえば澤村君は何で、部活を辞めたの? 先輩に弄られていても頑張っていたじゃない?」
転校するからだけど──その事を言うべきか迷っていると、先輩は「ごめん、意地悪な質問した」と言って、日陰の方へと歩いて行った。
「転校するから何でしょ? そうじゃなきゃ、あんなに一生懸命にやってたバスケ、辞めないよね」
「先輩のところまで話がいってたんですか?」
「話がいってたというか……同級生の妹さんが話しているのを聞いちゃった」
「あー、なるほど」
先輩は体育館の壁に背を預け、体育座りで座る。
「澤村君は牧野先輩、嫌いだったでしょ?」
「──はい。あの人、後輩を弄るのを楽しみにしているような先輩だったので嫌いでした」
「ふふ、だよねー」
早希先輩は行き成り、そんなことを聞いてどうしたんだろ?
「じゃあ……本田先輩は?」
「本田先輩は厳しい先輩だけど、優しくて好きでしたね」
「分かる~。じゃあ──」と、先輩は少し長い沈黙を挟み、俯く。そして「私は?」と、ボソッと言った。
「え?」
先輩は顔をあげ、俺を見つめると「私はどうですか?」
「えっと……先輩は……」
先輩は優しくて頑張り屋さんで好きだけど、正直に答えて良いのか!? 俺が返答に困っていると、先輩は小さく手を振り「おーい、もしかして私のことが嫌いで困ってる?」
「い、いや。そんな事ないです! 俺……優しい先輩のことス、スキですよ」
俺がそう言うと、先輩は両手で小さくガッツポーズして「やった!」と喜んでくれた。日頃、クールでカッコいい先輩をみてるだけに、こんな可愛らしい仕草をされるとグッと来るものがある。
「私も澤村君のことが好きだよ」
えっと……私も? って聞こえたけど、さ、さすがに後輩としてだよな!?
早希先輩は照れくさそうに髪を撫でながら「もちろん、異性としてだよ?」
後輩としてじゃなかったー!! 転校間近だっていうのに、何だこのモテ期は!!!
「えっと……な、何で冴えない俺なんか?」
「冴えない? 一生懸命にバスケをする君。とても輝いていたよ! だから私も頑張ろう! って、気持ちになれたし、惹かれていったんだよ」
「あ、ありがとうございます」
──素直に御礼を言ってるけど、ちょっと待て。俺は先輩として好きだと答えた。その誤解は解いておかないとヤバいことになるんじゃ……言い辛いけど──。
「先輩、あの……」
「なに?」
「さっきの……俺の好きは──」
早希先輩はその先の言葉を察してか、ニコッと微笑む。
「うん、分かってる。先輩として、でしょ?」
「あ、はい!」
「ふふ、それでも嬉しいのは変わらないから大丈夫よ」
「ありがとうございます!」
先輩はスッと立ち上がり、ユニフォームの短パンに付いた土を払う。そして顔を真っ赤に染めながら俺を見つめ「本当の方……遅くなっても良いから、待ってる」
「は、はい!」
「ところで今日、珍しく人数多いんだ。それでもバスケしてく?」
「えっと……それならまたにします」
「そう……じゃあ、またね」
「はい」
俺は先輩が体育館に入っていくのを見送る。──バスケが出来なかったのは残念だけど、まだ日にはあるし、返事もしなきゃだから、今日は違う所を回るか。
それにしても憧れの先輩から告白されるとは……掌で転がされていた感があるけど、きっと照れ隠しもあったのかな? 何にしても、先輩の気持ちが凄く嬉しかった。
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