第2話
次の日の放課後。俺は帰ろうと靴を履き替えて玄関を出た──もうすぐ居なくなるし、何だかこのまま帰るのも勿体ない気がする。
急にそんな気持ちになって足を止める。でも何処に寄って行こうか──そうだ! 久しぶりに体育館に行ってみよう!
──体育館に着いてドアを開けると、そこにはバスケットのシュート練習をしている
高校ともなると真面目に部活をする人は少なくなるし、何もおかしいことはない。俺が部活をやっていた時も、やるのかやらないのか、良く分からない状態だった。
早希先輩は俺に気付いていない様で、ひたすらジャンプシュート練習を繰り返す。俺はこのまま黙って様子を見ることにした──。
先輩はワンハンドシュートに拘っているだけあって、とても綺麗なフォームをしている。それにジャンプシュートをする度に、艶のあるショートボブの黒髪が揺れ、見入ってしまう程、輝いて見えた。
「あ……」
先輩のシュートが、ゴールに弾かれ、ボールがこちらに転がってくる──俺は黙って拾い上げ、先輩に向かってボールを突き出した。
「お疲れ様です」
先輩は近づきながら、切れ長の目を細め、ニコッと微笑むと「あら、澤村君。久しぶりね」
「お久しぶりです」
「今日はどうしたの?」
「えっと……」
転校の事は話したくないし、どうしたの? と、聞かれると困ってしまう。とりあえず俺は「久しぶりにバスケットがしたくなって、来てみたんです」と、嘘をついた。
「あら、そう。じゃあ……私とワンオンワンをやらない?」
「え……願ってもない申し出だけど、良いんですか!?」
「いいよ~」
「じゃあガチで、いきますからね?」
先輩は不敵の笑みを浮かべ「どうぞ~」と言うと、腰を低くしてディフェンスの姿勢を取る。
俺がゆっくりドリブルを始めると、先輩は「10点先取した方が勝ちね」
「分かりました。では、行きますよ」
俺は声を掛け、素早くドリブルを始める──だが、先輩の切れのある動きで、直ぐにスティールされてしまった。
さすがだな。1年近く頑張っても、レギュラーになれなかった俺とは違う。
「次は私が攻める番ね」
「はい」
先輩は素早くゴールに向かってドリブルをする──フリをしてピタッと止まるとその場でジャンプシュートをした。
ボールは綺麗に弧を描き飛んでいく──が、ゴールに弾かれる。よし! 俺はボールの下に回り込み待ち構えた。
先輩の身長は、女子と比べれば低くはないが、俺よりは低い。この位置だったら俺の方が有利だ!
そんな風に思っていると──え!? 先輩がポジション取りをしようと体を密着してくる。鍛えているとはいえ、ムチムチボディだ! そ、それに豊満な二つの果実がッ!!!
堪え切れなくなった俺は力を緩め、気づかれない様に場所を譲った。先輩は、すかさずベストな位置へ移動し、ジャンプをしてボールを取る。
そのままドリブルをしてゴールに向かい、レイアップシュートを決めた。くそ~……ムチムチボディ、おそるべし!
──こうして俺はバスケットを堪能する。結果はもちろん負けてしまったが、十分に満足していた。
俺は息を切らせながら「ありがとうございました」
「いえ。こちらこそ、ありがとう。またやろうね」
「はい」
「今度は、手を抜かなくて良いからね!」
「え? 手なんか抜いてないですよ?」
「あら、そう? リバウンドのポジション取りの時、全然当たりを感じなかったから、遠慮しているのかと思った」
た、確かにそれは遠慮した……だって先輩、あの後もメッチャ密着してくるんだもん。思春期の男の子には身が持たないよ。
「えっと……正直に言うと、それは遠慮してました」
「でしょ!? 今度は押し倒さない程度だったら、大丈夫だから遠慮しないで」
押し倒さないって……ちょっといけない想像をしながら俺は「は、はい。お疲れ様でした」と返事をする。
「お疲れ様~」
──ふぅー……久しぶりの運動は気持ちが良かった。今日は疲れたから真っすぐ帰るか。さて、明日は何処に行こうか。
※※※
次の日の放課後。俺はあてもなく校内をフラフラしていた──この先は室内プールか……この学校の凄い所はこれがある事だよな。
生徒の健康維持のために水泳部の邪魔をしなければ自由に使っていいことになっているが、結局、授業以外は使わなかったな。せっかくだから、ちょっと覗いてみるか。
──プールに着くと、アクリルの窓から中を覗く。へぇー……水泳部かどうか分からないけど、結構、泳いでるな。
「ちょっと、澤村先輩!」
俺の後ろから、女子が少し強い口調で話しかけてくる。俺は誰だ? と思いながら後ろを振り返った。
セミロングの黒髪に、クリクリとした目の、ちんまりとした可愛らしい女の子だけど……誰だ? 先輩と言っていたから後輩なのは確かだが、思い出せない。
「そんなイヤらしい目で見ていたら、女子部員たちが集中できないじゃないですか!」
「いや、そんなつもりは無かったんだけど……ところで君、何で俺の名前を知ってるの?」
「え……覚えてないんですか?」
俺の言葉がショックだったようで、彼女は悲しげな表情を浮かべる。ヤバ……傷つけちゃったみたいだ。
「──ごめん。そうだ、名前を教えて貰って良いかな? 何か思い出すかも」
「牧野
「リンちゃん……」
なんか懐かしい気がするけど──。
「先輩、無理して思い出さなくて良いですよ。これから覚えて貰えるなら十分です」
「ありがとう」
「先輩は今日、泳ぎに?」
「いや、そういえばプールあるのに、授業以外で一回も行ってないなって、ふと思って来てみたんだ」
凛ちゃんは嬉しそうにニコッと微笑むと「そうだったんですね! じゃあ今度、気が向いたら、泳ぎに来てくださいよ。私、水泳部なんで、いつでもここに居ますから」
「へぇ、そうなんだ。分かった、またいつか来るよ」
「楽しみにしてますね!」
「あぁ」
こんなに嬉しそうに楽しみにされちゃ、行かない訳にはいかないな。水着を用意しておかないと!
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