求婚書を返却してすみません!
有木珠乃
第1話 転生して早々やらかした!
「これはどういうことだ! カティア・イーリィ」
庭園内にある
「何が、でしょうか」
私は椅子に座ったまま後ろから聞こえてきた声に答えたが、振り向くことはしなかった。
どうしよう、と私は内心ドキドキしながら冷静を装う。
ついにやってきてしまった。私が別人だとバレたら大変……。だけど、カティアの性格を知らないから、すぐに分かるよね。私がカティアじゃないってことを。
***
それは一週間前の出来事だった。余命三ヵ月を宣告されて、ほんの数日
このカティア・イーリィという伯爵令嬢の体で。
よくある異世界転生。そこまでは許容範囲内だった。問題は、ここがどこなのか分からないことである。
私はゲームや小説、漫画をよく読んでいた方だが、カティア・イーリィという名に全く身に覚えがなかった。
これからどう対処すれば良いの……。
途方に暮れながらも、私はカティアの体で現状を必死で受け入れていた。そんな矢先、問題が発生した。それが今、後ろにいるスティグ・ギルズだ。
一週間前に送られてきた求婚書を送り返したのを皮切りに、毎日のように届く求婚書。
怖くて私はそのすべてを送り返していた。そしたら、まさか本人が現れるなんて……。メイドが知らせに来てくれなければ、悲鳴をあげていただろう。
そのメイドが教えてくれたのだ。彼、スティグ・ギルズがカティアの幼なじみであること。そして、一週間以上前に、求婚されていたことを。
それを嬉しそうに語っていたのに、なぜ求婚書を送り返したのか、問われてしまったのだ。私はそれに悲鳴という、最悪の返事をしたのは言うまでもない……。
***
声だけでも分かる。明らかにスティグは怒っている。
当然だ。冷静に考えれば、求婚を受け入れて、正式に求婚書を送ったのに、なぜか返されたのだから。そこで私はスティグがやってくるまで作戦を立てた。
その名も、
「とぼけるな!」
作戦だ。返してしまった事実は
「いきなり現れて、突然どういうことかと言われたら、何がと答えるしかないではありませんか」
うん。貴族令嬢なら、
「本気で言っているのか?」
戸惑った声が聞こえた。
それはそうだ。幼なじみの立場を経て求婚することは、つまり昔から思っていた確率が高い。
それなのに私は知らなかったとはいえ、求婚書を返してしまったのだ。罪悪感が半端ない。私はカップを手に取り、飲む振りをして
後ろから足音が近づく。顔が上げられない。ドキドキしていると、
バン!
近くで大きな音を立てられ、私はビックリして目を閉じた。
求婚書を返して怒っているのは分かる。私に文句を言いに来たことも。それはただ単に私の希望的観測なだけで、本当は殴り込みに来たのかもしれない。
転生前で見たニュースに、交際を迫った挙句、断られたことに逆上して相手の人を刺した、という事件があった。
このスティグ・ギルズという男も、そういう危険人物なの!?
そう思った瞬間、私は毅然とした態度を取ることも、反論することさえも出来なかった。
下手なことを言って、殴られたらどうしよう。
「カティア?」
スティグの心配そうな声に、私はそっと目を開ける。すると、頬の近くにスティグの手が見えた。本当に殴られるかも、と思った私は再び目を強く瞑る。
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